第3交響曲「春」 (Symphony No.3 "Spring")

Sadao Bekku

別宮 貞雄

1)市販メディアなし

指揮:荒谷俊治 / 東京フィルハーモニー交響楽団

2)FOCD2510 /(株)フォンテック

指揮:若杉弘 / 東京都交響楽団

この曲を初めて聴いて日本人の作品と気付く人はどれくらいいるだろう?東京(帝国)大学の物理学科を卒業後、美学科に入り直したというちょっと変わった経歴を持つこの作曲家は、前衛や無調に対する懐疑的な立場から機能調性を重んじた音楽を作り続けてきた。中でもとりわけ「春」という標題を持つこの3番目の交響曲は、ドイツ系ロマン派の作曲家の手による交響曲の名作と言われればつい信じてしまいそうな、標題から想像される通りの親しみやすい作品である。古典的な音楽の標題に付される調の表記こそないが、作曲者はCDのライナーで「殆ど変ホ長調といってよいものとなった」と述べている。

さてその内容はというと、まず第1楽章冒頭、ホルンの独奏に導かれ山の春の訪れを告げるが如きファンファーレに始まる...。なぁんだ、ありがち、と早合点するなかれ。そこは別宮貞雄の作品、決して安直な通俗性に流れることなく良質な音楽を聴かせてくれる。邦人作曲家の手になる現代作品なれど、それらをことさら好んで聴くリスナーよりも、むしろ普通のクラシックファンに安心してお薦めできる、良い意味での文部科学省推薦型音楽だ。なお、第1楽章は独立して「祝典序曲」としての演奏も可能となっており、'81年にまずこの形式で初演が行われている。

続く第2楽章は、花咲き蝶が舞う光景を描いたのどかな春の野山を思わせる緩徐楽章。木管楽器により鳥の囀りが模倣され、時折カッコウの声らしきものも聞かれる。最後の第3楽章は、西欧民謡風の素朴な旋律が低音弦のユニゾンで奏される6/8拍子の舞曲で、「人々は踊る」の標題が付いた楽しげな音楽である。

NHKの委嘱によるこの曲を初めて聴いたのもやはりNHKのラジオで、荒谷俊治指揮による'84年の全曲放送初演の録音だった。現代の音楽、特に管弦楽のように編成の大きいものはレコーディングのために新規にスタジオ録音されることは少なく、CD化に際してはNHKで放送された既存のライブ音源なども良く使用されるため、フォンテックからこの曲のCDが出ると知っててっきりいつものようにラジオで聴いたのと同じ音源だと思って期待していたら(現代の曲には音源が複数無い場合も多い)、いつの間にか行われた別の演奏会のものだったというオチが付いた。個人的には幾分テンポが速めの荒谷俊治の演奏の方が気に入っているのだが、ゆったりと着実に押してゆく若杉弘の演奏も悪くない。

なお、第4交響曲「夏」がこのCDに併録されている他、その後カメラータから第5(28CM-665)が、ナクソスから第1と第2(どちらも8.557763J)がそれぞれ発売されたお陰で、この作曲家の5つの交響曲はすべてCDで聴けるようになった。

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