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スノー・クイーン(雪の女王 / The Snow Queen)

Jukka Linkola

ユッカ・リンコラ

WPCR-5572 / ワーナーパイオニア((輸)FINLANDIA FACD920)

指揮:ユッカ・リンコラ

ここで紹介するのは、珍しいフィンランド映画のサウンドトラックである。言うまでもなく、アンデルセンの童話が原作であるが、映画自体は日本未公開であり、筆者も未見である。

購入したきっかけは、たまたま目にしたCDのジャケット写真。おそらく雪の女王その人であろうが、純白の化粧と衣裳に赤い原色系ライトを当てた独特で幻想的なビジュアル感覚に魅かれたのだ。これは、他の国の映画では目にしたことのないものだ。「音楽も魅惑的なものに違いない」と、直感的にそう感じて即購入したが、果たしてその通りであった。

金管楽器を控えめに用いた管弦楽に、シンセサイザー、ピアノ、ハープ、グロッケンシュピール、シロフォン、ウィンド・チャイム、トライアングル、タンバリンなどの多数の編入楽器を加えた音響設計により、まるで、ポール・ジェンキンスのアクリル画でも見るような鮮やかで透明な色彩感覚と、雪と氷の世界を思わせる煌めきや清涼感を巧みに表現している。特にピアノは、協奏曲のように管弦楽と対峙する立場で主旋律を担うことは少なく、むしろ管弦楽の一部として音響的な性格作りを担う重要な役割を果たしている。

作曲はユッカ・リンコラ。本作品で1987年のユッシ(Jussi)賞(いわばフィンランドのオスカー賞)を受賞している。筆者もこの作品で初めてその名を知ったが、解説によると作曲家、編曲家、ジャズ・ミュージシャン、ピアニスト兼指揮者ということであり、いわばフィンランドのレナード・バーンスタインといったところ。

同じレーベルから、リンコラのクラシック作品ともいえるバレエ音楽「ロニア・ザ・ロバーズ・ドーター(山賊の娘ローニャ)」(ユッカ・リンコラ指揮,フィンランド国立歌劇場o.)も出版されている。作風としては、どちらもこうした作曲家の作品に良くあるジャスとのクロスオーバーが見られるわけではないのだが、商品カテゴリとしてはどちらも「ジャズ&フュージョン」に分類されてしまっている。このため、CDショップでもジャスコーナーに置かれていたりするのだが、リンコラの知名度が高いとはいえない日本では、それぞれの音楽ジャンルの好事家の目に触れるような場所に置かないと売れないんじゃないだろうか?と、余計な心配をしてしまう。

そこで老婆心ながら、というわけでもないが、このマイナーながら魅力的なサントラからいくつか曲を紹介しておこう。冒頭の「宇宙」(Space)は、暗黒の深淵を思わせるシンセサイザーの音響で始まり、ピアノとハープの導入をきっかけに孤独で不安げな管弦楽へと引き継がれる。このような曲で始まることから、本作品は童話をそのまま映画化したのではなく、SF的な脚色がなされていることが想像される。もしかすると「雪の女王」は、異星人という設定なのだろうか?

次の「浜辺のカイとゲルダ」(Kai and Gerda on the Beach )は、ワルツ風の楽しげな3拍子の曲である。この曲のテーマはサントラ中に何度となく形を変えて登場する。また、中でも「ゲルダの旅」(Gerda's Journey)はこのサントラ全体の性格を象徴する幻想的な曲である。ピアノの分散和音と金属系打楽器の光輝を放つ伴奏に彩られて、中低音域の弦楽器が流麗な旋律を奏する、氷河の世界に分け入っていくかのような曲である。「氷河」(On the Glacier)でも、これに近い音響を聴くことができるが、この曲は、同じFINLANDIAのヒーリング系クラシックを集めた企画アルバム「清流のささやき」(国内版:WPCS-10434)にも収録されている。

「盗賊の饗宴にて」(At the Robbers' Feast)は、全曲中最も異彩を放っている曲で、弦楽器と打楽器によるリズムに乗って、アクの強いだみ声の歌が入る。いかにも「ワル」(映画を見ていない筆者はどうしても擬人化された狼を思い浮かべてしまう)の酒盛りを思わせるミュージカル風の曲である。

そして、終盤の「光と闇の闘い」(Struggle of Light and Darkness)は、ハリウッドアクション映画のクライマックスを思わせなくもないが、打楽器が活躍するダイナミックな曲だ。

北欧の映画というのはなかなかお目にかかる機会が少ないが、日本やアメリカの映画音楽ではあまり聴けない感性に触れられる意味でお薦めしたい1枚。

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