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ユーリ!!! on ICE

Taku Matsushima(Yuta Bandoh) / Taro Umebayashi

松司馬拓(坂東祐大)/梅林太郎

EYCA-11291 / エイベックス・ピクチャーズ(株)
(Oh! スケトラ!!! ユーリ!!! on ICE/オリジナル・スケートソングCOLLECTION)

指揮 松司馬拓/Ensamble FOVE piano:實川風、
tenor:工藤和真、soprano:松原凜子

アニメの音楽も時代の変化と共にスタイルの変遷を遂げて来た。そして、いつの間にかCDショップのアニメコーナーの棚の景色がいわゆる秋葉系のイラストで占められ、歌ものだけでなくインストゥルメンタルのサントラまでもが「アニソン」というジャンルにまとめられてしまうようになった頃から、アニメの劇伴音楽がつまらなくなってしまったと感じていた。調べてみれば、様々な工夫やアイデアが詰め込まれてはいるものの、個人的には実際に耳で聴いてサントラを買いたいと思うほどの印象に残らないものになってしまって久しい。

しかし一方で、ドラマの中で演奏される(つまり登場人物に聴こえている)オリジナルの(または既成曲のオリジナルアレンジによる)いわゆる「劇中曲」が、リアルで聴き応えのあるものになって来たと気付いた。「坂道のアポロン」(’12)のジャズ、「響け!ユーフォニアム」(’15)の吹奏楽のオリジナル曲、「心が叫びたがってるんだ。」(’15)の既成曲のミュージカルアレンジ、「この音とまれ!」(’19)の箏曲、「ましろのおと」(’21)の三味線と民謡、「平家物語」(’22)の琵琶等々...。そして、そう気付くきっかけを与えてくれたのが、この「ユーリ!!! on ICE」(’16)の劇中で使われたフィギュアスケート用の音楽だったのだ。

一部既成のクラシック音楽も使用されてはいるが、ほぼ松司馬拓(本名の坂東祐大名義で「竜とそばかすの姫」のサントラも担当したクラシック系現代音楽作曲家)と梅林太郎によるオリジナル曲で、基本的には現実の既成曲にいかにもありそうな、言ってみればパロディなのだが、曲のジャンルがバラエティに富んでいる上、独立した楽曲として聴いても中々に秀逸なのである。

それぞれ番組に登場するスケート選手のキャラクター毎に原則2曲ずつレパートリーが割り当てられているのだが、現実のスケート選手(宮本賢二)が振り付けたリアルな演技と共に丸々一曲演奏されるので、毎回とても見応え(聴き応え)がある(なお、端役選手の演技のためにちらっとしか登場しない曲には、ほぼ既成のクラシック音楽が割り当てられている)。

特に、主人公の勝生勇利が憧れのロシア人スケーター、ヴィクトル・ニキフォロフの演技をコピーして滑るシーンに使われたアリア「離れずにそばにいて」がいきなり第1話から非常に印象的。架空のオペラのアリアという設定で、冒頭はプッチーニの「トゥーランドット」の有名なアリア「誰も寝てはならぬ」を思わせる幻想的な出だしで、イタリア語のテノール(工藤和真)による歌唱を伴うのだが、全体のスタイルとしてはクラシックというより、サラ・ブライトマンやアンドレア・ボチェッリの歌唱(デュエット版と各々のソロ版とがある)でヒットした「Time to Say Goodbye」に近い印象である(実際、本アリアにもデュエット版が存在し、最終話で使用された)。そして演技のラストでは、ティンパニの連打に乗ったシットスピンの後、決めのポーズをオーケストラのトゥッティ(総奏)でカッコ良く締める。(因みにオペラのナンバーはいちいち個別のタイトルを付けるのではなく、曲の出だしの歌詞をもって呼称とされるのが慣わしなので、「遠くで泣き声が聞こえる」と始まる本曲のタイトル付けはいわゆるドラマ演出上の嘘である。)

また、番組の公式ホームページにアップされていた予告編PVは、劇場映画並みのクオリティだったが、その1つで使用された「ピアノ協奏曲 ロ短調 アレグロ・アパッショナート」も非常に印象的で、筆者はこれを聞いてサントラの発売が待ち遠しくなった。タイトルはおそらくチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調」と、サン=サーンスの「アレグロ・アパッショナート」(あるいはシューマンのピアノとオーケストラのための「序奏とアレグロ・アパッショナート」)あたりのパロディであり、「快速かつ情熱的に」の指定通りいかにもロマン派ピアノ協奏曲風の曲想に、サン=サーンスの「交響曲第3番 オルガン付き」風のティンパニのアタックが入る第1主題が実にカッコ良い。特に第1主題をピアノで演奏した後、そのまま盛り上がってオーケストラのトゥッティによる繰り返しに突入するところなど、いかにもクラシックにありそうな展開だが、コントラバスのゾリゾリいう低音が実に耳に心地良い。残念ながらこれに比べて第2主題がちょっとパンチに欠ける気がするのが玉に瑕だが...。

「愛について~Eros~」と「愛について~Agape~」の2曲は、同一の原曲の相反する性格のアレンジ曲を、勝生勇利とユーリ・プリセツキーがそれぞれ滑るという趣向が面白い。前者は、バンドネオンと手拍子が入るスペイン風の情熱的なアレンジで、どことなく情熱大陸の主題曲(作曲:葉加瀬太郎)を思わせる。一方後者は、ボーイ・ソプラノとパイプオルガンの入る聖歌風のアレンジとなっている。

「Shall We Skate?」は映画「王様と私」の名曲「Shall We Dance?」からタイトルをもらった架空の映画「王様とスケーター」の主題歌という設定の楽しいナンバーで、タイの選手ピチット・チュラノンの演技で使われる。一方、「Terra Incognita」も同様に「王様とスケーター2」の主題歌という設定だが、こちらはタイだかインドだかわからないがいかにも民族音楽風のコーラス(歌詞の意味は不明)と弦楽器がフィーチャーされている。

ラップの入る英語歌詞のナンバー「Still Alive」のタイトルは、やはり映画「サタデー・ナイト・フィーバー」でヒットしたビージーズの「Stayin' Alive」からインスパイアされたものか。

この他の曲も、アジア風のしっとりとした弦楽器のソロがフィーチャーされた「La Parfum de Fleurs」、ハリウッドのアクション映画のサントラ風でスピード感あふれる「The Inferno 」(架空の映画「上海ブレイド」のサントラという設定)、社交ダンスで使われそうなマンボの「Almavivo」、軽快なブギ「Minami’s Boogie」など実に多彩。

ラヴェルの曲からタイトルをもらったと思われる「スペイン狂詩曲」は、やはりラヴェルの「ボレロ」風の繰り返しが特徴のオーケストラ曲だが、「ボレロ」ほどに同じ旋律を執拗に繰り返すのではなく、展開がある。

また、カザフスタン出身の選手オタベック・アルティンの演技に使われるベートーヴェンの第9のアレンジは、いわゆる社会主義リアリズムのクラシック音楽に本当にありそうな歌詞と内容に思えて笑える(もっともカザフスタンの実際の政治体制は、ソ連の崩壊した現在では共和制だということではあるが)。

ついでに補足しておくと、主要キャラクターのうち、ギオルギー・ポポーヴィッチのみレパートリーの1曲がオリジナル曲(またはオリジナルアレンジ曲)ではなく既成のクラシック曲となっている。チャイコフスキーのバレエ音楽「眠りの森の美女」のプロローグ(第1幕の前の幕)の終曲中に聴かれるカラボスのマイムがそれで、魔女カラボスがオーロラ姫に呪いをかけるシーンの曲である(ただし、演技の構成上、曲の前半と後半の順序が逆転してある)。チャイコフスキーの描写力の面目躍如と思えるこの曲は、残念ながらオリジナルの演奏が本CDに収録されていない。かつ、本バレエの組曲版や抜粋版には通常この曲は含まれないため、CD2~3枚組を要する全曲盤を別途購入しないと聴くことができない。お近くにCDの貸し出しも行っている図書館がある方は、レンタルされるのも手である。

なお、この番組には劇中曲ではなく劇伴を収録した「ユートラ!!! ユーリ!!! on ice/オリジナルサウンドトラック」(エイベックス・ピクチャーズ株式会社 EYCA-11464)が本CDとは別に存在するが、こちらは「スケトラ」と同じ作曲家によるものの、筆者にとっては本当に単なる劇伴であって、さして面白くないことをお断りしておく。

最後に蛇足ながらさらに付け加えておくと、フィギュアスケートを題材にしたTVアニメには他に「スケートリーディング☆スターズ」がある。スケートリーディングという架空の団体競技を軸にしたストーリーだが、残念ながら演技の音楽は、物語序盤ではモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」等のクラシック音楽の入門者向けのような選曲であり、中盤からはシンセサイザーによるオリジナル曲も使われるようになったものの、独立した音楽として面白いとは言い難いものであったと言える。

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