オーケストラものに重点をおいた音楽への非正統派なご案内
Tokuhide Niimi新実 徳英 |
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市販メディアなし 指揮:石橋義也 / 東京フィルハーモニー交響楽団 この作品はNHKの委嘱で作曲され、'85年9月にイタリアのカリアリで開催される第37回イタリア賞国際コンクールのラジオ音楽部門に参加予定のラジオ音楽作品として、同年7月にNHK-FMで放送初演されたものである(その後どうなったかについては確認できていない)。同年は国際森林年であり、子供の台詞とメゾソプラノ(母親)、合唱、ナレーション、ピアノ、および3管編成の管弦楽によって、環境破壊の恐怖と地球を大切にしようというメッセージが語られるシアターピース的な作品となっている。 作詞はまえだ純であるが、「酸性雨、酸性雨、地球を殺す」とか「地球が泣いている」といった歌詞のイメージを管弦楽が平明に描写してみせ、現代音楽の作曲家の作品ながら誰にでも親しみ易い内容となっている。いや、むしろ現代音楽で培った卓越した管弦楽法を駆使したことにより、地球の切迫した状況を克明に描き出したオーケストレーションは、聴いていて実に面白い。そしてラストでは、「地球を見捨てないで!、見捨てないで!!」という少女の悲痛な叫びをきっかけに、「地球は1つ、たった1つ、命ある星」と地球への賛美を合唱が歌い上げ、鐘を模したチューブラーベルの音を伴って、天上から光が降り注ぐように美しく感動的に盛り上がって終わる。こうしたところは、「白いうた青いうた」シリーズに代表される合唱作品も数多く手がけてきた作曲者の面目躍如というところだろう。 ただ、語り手の千葉繁がアニメの声優や俳優として広く知られており、アニメ「うる星やつら」('81年版)のメガネ役や「北斗の拳」の予告編ナレーターでのハイテンションな超絶長ゼリフが浮かんでしまうと、この曲を初めて聴いた時に思わず笑いがこみあげてしまうのは致しかたないところ(もちろん、本作品での語り口は深刻そのものであり、そのようなものとは全く異なっているが)。 残念ながら、筆者は番組が始まってから本作品の放送に気付いたが、当時エアチェックに適した機材を持ち合わせておらず、慌てて友人に電話して録音してもらったため、全曲で約45分のうち後半の4割程度を聴くことしかできていない(このため、本解説は曲の後半に基づくものである)。このような時事の世相を反映している作品では、歌詞の内容に時間とともに古くなっていってしまう部分があることは否めないが、音楽作品としてはたった1度の放送で埋もれさせてしまうのは惜しいとしか言いようがない。何よりも、放送からちょうど30年を経た現在('25)でも環境問題は解決に至らないどころか、解決のための国際協調すら瓦解しつつあり、地球温暖化もいよいよ切迫してきている。万人に聴いて欲しいという意味で、この曲の存在価値は少しも失われていないと言えるだろう。今となっては放送局の録音テープも失われてしまっている可能性もあるが、どこか奇特なレーベルが発掘してCD化でもしてくれないものだろうか。 なお余談だが、かつてフィギュアスケートにおいてサラ・マイアーが、新実徳英のピアノ伴奏付ヴァイオリン独奏曲「秋の紅(くれない)」と「黒のラフォリア」を演技に使用したことがあり、ちょっと驚いた。これらの曲は以下のCDに収録されている。 鳥のシシリアーノ〜新実徳英:ヴァイオリン・ソング・ブック/大谷康子 28CM-528/カメラータ・トウキョウ |
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