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オーケストラのための3つの断章

Kaoru Wada

和田 薫

市販メディアなし

指揮:広上 淳一/NHK交響楽団

和田薫は17歳で独学で音楽を志し、その後伊福部昭の「ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ」を聴いて東京音大に入学。伊福部昭、有馬礼子らに学んだ。非西欧的な和声と旋法を用いた伊福部譲りの土俗的な響きと、変拍子や打楽器を駆使した誰よりも打楽器奏者をこそ喜ばせるとも言われる躍動的な作風で知られており、特にアニメーション用音楽の分野ではドロドロとした世界観を生かした多数の作品で独自のジャンルを築き、高い人気を誇っている。

この作品は和田の卒業作品で、1986年にオランダで初演された。一般に在学中の作品は1度も演奏されないことの方が多いが、ここで挙げた演奏は、和田の大学時代の先輩であり初演者でもある広上淳一の指揮によってN響の第1133回定期公演で再演されたものである。FM放送で生中継されたほか、TVのN響アワーで広上淳一の特集としても放送されており、この作品はかなりの幸運に恵まれたといえる。広上はこの他にマルメ交響楽団を指揮してスウェーデンBISに和田の「民舞組曲」を録音してもいる。

FM放送当時、ゲストに迎えられたなかにし礼は、休憩時間のインタビューでこの作品について「音楽の3つの要素、メロディ、ハーモニー、リズムを3つの楽章に分けて、それをモチーフにして作曲するというアイデアが音楽史上画期的」とコメントしている。

そうなると、この曲の聴きどころはやはり何と言っても第3楽章だ。マレット(先にフェルトのついた撥)の木の柄の方を使って両手で叩くティンパニのダン、ダン、ダン、ダン、ダンという強連打に続いて変拍子(広上の指揮を見ると4/4+3/8+2/4で振っている)のスピード感溢れる主題で始まる冒頭部からしてあっという間に和田ワールドに引き込まれる。打楽器はティンパニやサスペンダー・シンバルの他に、ティンバレス、トムトム、タムタム(ふつうの中国系の銅鑼。銅鑼には他にゴングというのもあるが、それはジャワ系で一般的に中央部に突起がある)、ボンゴ、カウベル、タンバリン、テンプル・ブロック(コンサート用の木魚)、グィロなどが用いられていて、ティンパニ奏者を含めた4人の打楽器奏者で叩きまくるが、さらに他の楽章を含めるとグラン・カッサ(大太鼓)やチューブラーベルなども使用されている。

終結部近くでは打楽器の小刻みなリズムの繰り返しが、重低音楽器群のユニゾンによる息の長い旋律を導きだし盛り上げていくが、このあたりの手法は伊福部の「マリンバとオーケストラのためのラウダ・コンチェルタータ」あたりの影響だろう。広上の指揮といい、演奏は熱気溢れるもので、終了と同時に会場からは「ブラボー!」の歓声が聞こえる。残念ながらCD化すらされていないが、この録画は是非DVD化もして欲しいところだ。

なお、第1楽章と第3楽章の一部は、ほぼ同時期に和田が手掛けたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)「モザイカ」でも使い回されており、新星日本交響楽団の演奏で聴くことができるが、後者において原曲のような打楽器の饗宴を聴くことはできずおとなし目である。

「モザイカ」オリジナル・サウンド・トラック

KICA-77/78 / キングレコード(株)

指揮:和田薫/新星日本交響楽団

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