オーケストラものに重点をおいた音楽への非正統派なご案内
Akio Yashiro矢代 秋雄 |
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KDC 17 / キングインターナショナル(株) pf:赤井裕美 完璧主義ゆえの完成度の高い作品と寡作で知られ、46歳の若さで急逝した矢代秋雄。管弦楽法を伊福部昭に師事したが、芥川也寸志や黛敏郎など、他の多くの著名な弟子たちがこの師に絶大なる感化を受け、それぞれ形は違えど何らかの形で自らの作風の中に日本的な民族主義を体現していったにもかかわらず、この弟子はフランス系音楽を規範とした他の師たち - 池内友次郎、ナディア・ブーランジェ、ノエル・ギャロン、オリヴィエ・メシアンなど - に傾倒し、全くその影響を受けなかった...と思っていた。図書館にあった「世界大音楽全集」(音楽の友社)でこの曲の楽譜を見つけるまでは。 いや、嬉しかったね。何せ「荒武者の踊り」だからね。しかものっけから東洋的な和音(ミシファ#)をスフォルツァンドで一発といういかにもな出だしではありませんか!まさに「あった!」という感じで、埋もれていた名曲を発見したかの気分。しかし喜びも束の間、大きな問題が立ちはだかった。そう、入手できる音源が全くなかったのだ。 どうしてもこの曲を聴いてみたかったがピアノが満足に弾けなかった筆者は、ちょうどその頃凝っていたDTM(Desk Top Music)で解決することにした。要するに自分でシンセサイザーの打ち込みをやることにしたのだ(筆者の使っていたE-muのUltra Proteusはサンプリング音源のため楽器と音域によっては結構リアル)。あくまで素人だったので決してプロの演奏とは(あるいはプロの打ち込みとは)比較になんぞならないが、そこは自分の打ち込み。趣味に偏った演奏表現でもだれも文句は言わないので、大げさに付けたダイナミクスに重厚なffと好き勝手にでき、自己満足レベルではそれなりに良かったのだ。それに何よりも曲全体の雰囲気を耳で確かめることができた。 それから十ウン年、ついに出た、というのがこのCD。趣味に偏りすぎた自分の演奏に慣れてしまっていたため、いささか上品すぎるしゆっくり過ぎる感じはするが、ともかくもプロの演奏がやっと聴けることになった。それにしても全般にわたる土俗的な和音とバーバリックなリズムに加え、グリッサンドの連発があったり、中間部には左手で低音のリズムを刻みつつ、右手で内声部の16分音符のリズムとこれに同期したりずれたりする上声部の旋律を同時に演奏する緊張感溢れる部分もあったりして、目の前で演奏を見ていたら相当カッコいいに違いない。「ピアノ・スコアではなくピアノ用編曲である」とわざわざ作曲者が断わりを入れるだけのことはあるが、この辺のピアニスティックな書法は伊福部昭の影響というよりアカデミックな西洋音楽の手法をみっちり学んだ矢代秋雄らしさといえようか。TVドラマなどでは、ピアニストがここぞとばかりに腕前を披露する場面で弾くのはいつもショパンの「幻想即興曲」と相場が決まっているが、番組製作者もたまにはこんな曲でも使って自国の作品の普及にも貢献してもらいたいもの。 なお、この矢代秋雄の『吉田御殿』には、さらに師匠でもあった橋本國彦による原曲が存在するという。その辺のいきさつについては片山杜秀著「音盤考現学」(アルテスパブリッシング)に詳しいので参照されたい。 |
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