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そして誰もいなくなった(1974年版)

Bruno Nicolai

ブルーノ・ニコライ

CDDM146 / DIGIT MOVIES

指揮:ブルーノ・ニコライ / 演奏者:不明

原作は言わずと知れたアガサ・クリスティーのミステリ小説の金字塔であり、映像化も何度となく行われている。本CDは、舞台をイランの砂漠に移しての三度目の映画化に当たる1974年の作品のサントラである。

作曲者のブルーノ・ニコライは、’70年代前半にエンニオ・モリコーネの友人として同氏の映画音楽の指揮を多数手がけたことでも知られているが、作曲者としてメジャーなタイトルでクレジットされているのを目にする機会は決して多くないように思う。

しかしながら、筆者がこれまで実際に視聴した限りの同原作の映像化作品において、本サントラは唯一音楽的に価値ある作品と言って良いだろう(因みにオーケストレーションも本人によるものである)。音楽は、ベース、ギター、チェンバロ等を基調とした昔の映画に良く見られたムード音楽的な編成によるもので、全般的に見れば殺人ミステリの音楽にありがちな暗くて目立たないものであることは確かだが、それだけに、砂漠の別荘に集められた招待客達を謎の声(実はレコード)が順に断罪してゆくシーンの、トランペット・ソロをフィーチャーした音楽の演出効果は際立っており、格別印象に残る。筆者はこの曲欲しさにサントラ盤を購入し、また、同曲がこの映画を何度も見てしまう大きな要因ともなっている。

また、発電機の不調により、照明が明滅を始めたビリヤードルームで、判事が医者に協力を持ち掛けるシーンの音楽は、一見不規則なリズムによる弦楽器のアタックが、実にスリリングである。映像(照明の明滅)と音楽の双方のリズムの掛け合いが、演出における相乗効果を上げている好例と言って良いだろう。

このCDで残念なのは、シャルル・アズナブール扮するミシェル・ラベン(原作のアンソニー・マーストンに相当)が劇中においてピアノで弾き語りする「10人のインディアン」が収録されていないことである。最初の映画化である1945年版でも同様のシーンがあるのだが、そこではあくまで単なるピアノ伴奏による童謡として処理されており、映画の観客に童謡の内容を知らしめる以上の意味は感じられない。一方、この1974年版では、歌手という設定のミシェル・ラベンが、歌詞のストーリー展開に沿ってピアノで即興の劇伴を加えることにより、1人ずつインディアンが消えていく物語を他の招待客にドラマティックな演出で披露して見せる作りになっている(もしかすると、この曲だけはブルーノ・ニコライの作曲ではなく、実際にシャルル・アズナブール本人による即興なのかも知れない)。

そしてこの曲は、ピアノの単音の連打による「これから物語が始まりますよ」といった雰囲気の音型で始まるのだが、実は先の断罪シーンの音楽の冒頭も同じ音型で始まるようになっていて、「10人のインディアン」の物語(に見立てた殺人)の始まりを観客に想起させるという重要な演出も担っているのである(この単純な音型は、それ以外にもしばしば登場する)。したがって、今後完全版のサントラが製作される機会があれば、ぜひこの曲も収録して欲しいところである。

なお、この映画の日本でのTV放送版やレンタル・ビデオ版では、エンディング・クレジットでボーカル曲が流れるが、これは正式な主題歌ではなく、後から差し替えられたイメージ・ソング()であるため、当然ながらこれも本CDには収録されていない。

最後に、これ以外の映像化作品の音楽について若干補足しておく。筆者は二番目の映画化である1965年の「姿なき殺人者」については1度も見たことがないのでコメントは控えることにするが、日本で2016年と2017年に立て続けに放映されたイギリス版と日本版のTVドラマは、どちらも殺伐とした終始重苦しい演出であり、そのため音楽の方も同様に暗く重苦しい雰囲気の音響効果的な内容であった。そもそも筆者にとってのクリスティ作品のイメージは、’70年代から’80年代にかけて立て続けに製作された、豪華キャストによる華やかな雰囲気の一連の映画がぴったり来るものであったから、如何に連続殺人がテーマとはいえ、息苦しいだけの演出や音楽はイメージにそぐわないのである。

また、舞台をサファリに移した4度目の映画化である「サファリ殺人事件」であるが、そもそもテントによる野営地という開放空間では、いわゆる「吹雪の山荘もの」(クローズドサークルとも言う)の持つ、閉鎖空間で次々と殺人が起こる緊張感やスリルといったものが感じられず、見終わった後に物足りなさが残る内容であった。そのためか、音楽も全く記憶に残っていない。

※)当時、映画の公開に合わせて本編とは直接関係のないボーカル曲を製作して売り出すことが、公開キャンペーンとして良く行われていた。クリスティ作品では、本作の他にサンディ・オニールの「ミステリーナイル」(ナイル殺人事件)、やマリー・ルウの「ミステリー・シャドウ」(クリスタル殺人事件)等があるが、他にもディズニーのSF映画「ブラック・ホール」や、スタジオ・ジブリのアニメ映画(「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」)でもイメージソングが作られた例がある。

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