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動乱

Shigeaki Saegusa

三枝 成章(成彰)

H30K20077 /(株)キティレコード

指揮:井上道義 / 東京フィルハーモニー交響楽団
vc:藤原真理
pf:神谷郁代

「動乱」は、五・一五事件から二・二六事件までを時代背景に青年将校とその妻の生きざまと愛を描いた1980年公開の日本映画で、高倉健と吉永小百合の初共演が話題となったという。CDのタイトルは「交響曲」となっているが、作曲者本人によるライナーの解説によると、サウンドトラックを後から交響曲化したものではなく、最初から独立した楽曲を意図して作曲されたものである。

この音源はかつてLPで発売されたこともあったが、特に売れたという話を聞いたことは無く、長らくCD化もされなかった。それが1987年に唐突にCD化されたのは、あることがきっかけと思われる。

そのあることとは、TVアニメ「うる星やつら」の劇伴としてこの曲が頻繁に流用され、結果的に知名度と人気が高まったことである。この番組では、プロデューサーの多賀英典が、キティ・レコードが版権を所有する音源を自由に使用することを音響監督の斯波重治に許可していたため、既存のアルバムの楽曲が随所で印象的に使用されていたのだが、同番組のオリジナル楽曲を収録した一連のサウンドトラックアルバムに一向に収録されなかったため、これらの曲が幻のサウンドトラックとしてファンの間で隠れたニーズになっていたようである。そうした楽曲のうちの1つが、この交響曲「動乱」というわけなのだ。

これらの既成曲には、高中正義のFinger Dancin'のように早くから一般に曲名が特定されていたものもあるのだが、「動乱」についてはいつ頃から知られるようになったのかはわからない。筆者が気付いたきっかけは、FM東京のラジオ番組(※1)でこの曲の第2楽章が紹介されたことだった。最終的には、人気の高まりからか「うる星やつら」関連のCDでも「動乱」のTV使用部分のみが収録されたものが発売されることにはなったが(1986年)、全曲を通して聴くことができる音源は、本CDの登場まで入手できなかったのである。

さて、この曲には3つの楽章があるが、いずれも基本的に三枝のオリジナルらしい冒頭部分(Aパート)に続いて、小椋佳の作曲による主題歌「流れるなら」やオリジナルモチーフに基づいて三枝がピアノとチェロの独奏を伴う二重協奏曲(ドッペルコンチェルト)風に仕上げた部分(Bパート)が提示され、その後これらが交互に登場して展開する構成になっている。

このため、Bパートでは歌謡曲的な旋律で延々と哭きが入る上、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のピアノソロを思わせるパッセージが登場したりもする。こういったいわば俗っぽさが、人によって好みが大きく分かれる要因のようであるが、好きな人にはツボにはまるようである。

一方、Aパートはやはり聴き所で、ティンパニが連打される風雲急を告げるかのような怒涛の第1楽章、ピアノと弦楽器の柔らかな伴奏にオーボエの独奏が絡むしっとりとした第2楽章、独特のシンコペーションのリズムによる戦闘的な第3楽章と、いずれも他人の作品では聴けないこれぞ三枝成彰(作曲当時、成章)といった感がある。

また、第3楽章のAパートについては、これも広く知られているところなのであるが、後にTVアニメ「機動戦士Z(ゼータ)ガンダム」で、同じ素材がオーケストレーションを縮小して転用されている(※2)。ガンダムのファンであれば、Zガンダムのいわばフルオーケストラ版としても聴くことが可能なのである。

自身の作曲した素材を他の作品で使い回す作曲家は特に珍しいわけではない。例えば伊福部昭もその1人であるが、類似の作品を作り直すより1度完成したものを使い回した方が良いとの理由で意図的にやっている伊福部と違い、三枝の場合は意図しないでしてしまう場合もあるようである。以前本人がインタビューで語っていたところによると、「頭の中で作曲した曲を楽譜にしたかどうかを忘れてしまい、『先生、この曲前に聞いたことがあります』と言われたことがある」のだとか。

以上、様々な経緯を経て、今ではこの交響曲「動乱」は、三枝成彰のコンサートでもしばしば演奏されるレパートリーにもなっていて、その模様がTVで放送されたこともある(※3)知る人ぞ知る名曲となっているのである。

なお、CDのジャケットでピアノの演奏者名(神谷郁代)がIkuko Kamiyaと堂々と誤記されているのはご愛敬。

※1)「三枝成章 vs. 3S」~ 出光ミュージックタイム 「私と音楽の世界」(パーソナリティ:田中みどり)

※2)「動乱」とは異なるが、Zガンダムと同じ素材(ピアノ曲)がメガネのCMに使用されたこともある。

※3)「リーボックスペシャル 三枝成章&大友直人コンサート」で、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏による第1楽章が放送された。独奏は、ピアノ:吉田弥生、チェロ:堀了介であった。

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