リスト(サウンドトラックB級グルメ)へ
音楽の羅針盤 トップページへ

ねらわれた学園

Masataka Matsutoya

松任谷 正隆

VPCD-81242 /(株)バップ

'60~80年代頃にかけて親しまれたいわゆるSFジュブナイルで、何度も映像化されてきた小説と言えば、「時をかける少女」(筒井康隆)やこの「ねらわれた学園」(眉村卓)はその代表として挙げられるだろう。

どちらもあの大林宣彦監督によっても映画化され、音楽はいずれも松任谷正隆が担当した。CM出身の大林監督の作品には、モノクロ的な画像のストップモーションや独特のライティングなど、余人をもって代えがたい独特の映像表現がある。だから、作品としては期待されて良いはずであった。しかるに、「ねらわれた学園」の方は、主演の薬師丸ひろ子のアイドル映画を目論んだというバイアスがあったにせよ、原作者まで出演(校長役)しての何とも言えないおバカな映画になってしまった。大林監督の作品は、合成の継ぎ目が露骨だったりといつも特撮が粗いのが玉に瑕ではあるが、演出や映像表現を「時をかける少女」の時のようにもう少しシリアスに作ってくれていたら、きっと素晴らしい映画になっていただろうと思うと返す返すも惜しまれる。

とはいえ、そんな映画でも音楽はとても印象的であった。作曲者は言わずと知れた松任谷由美の夫であり、「ユーミン」の数々のアルバムを優れた編曲とプロデュース力でヒットに導いた立役者でもある。映画が映画なので、同じ作曲者による「時をかける少女」と比べても音楽が全体的に俗っぽいことは確かで、万人にお薦めできるというものでもないが、それでも筆者にとっては、映画を初めて見てから何十年経ってもなぜか忘れえぬ魅力があるのだ。

この映画音楽には、重要なテーマが2つある。まず、アルバム最初の「プロローグ」は、波乱を予感させるピアノ協奏曲風の派手な音楽で、このテーマは形を変えて何度も登場するが、特に「額縁の中の魔王子」では、劇中曲として峰岸徹扮する星の魔王子がこの曲のピアノパートを演奏する。

もう一つは、「由香の帰宅〜星の魔王子からの誘い」に出て来るテーマで、これは本映画中で最も印象的な曲である。オーボエのソロに絡む伴奏部の弦楽の扱いや曲の構成は、明らかにシューベルトの交響曲「未完成」(当時、第8番)の第1楽章を参考にしているが、このテーマは高見沢みちるが自分に従わない学校の先生や生徒に超能力を使って事故を起こさせたりするシーンなどに頻出し、学園に何か不吉な異変が起きているというサスペンス感に極めて良くフィッティングしている。もし、これをシューベルトによる原曲に置き換えてみたとしても、おそらくこれほど物語にはマッチしないであろう。既成曲のアイデアを流用しながらも、単なる模倣に堕していない好例と言える。

大林ワールドの映像にこの音楽...、やっぱりシリアスに作って欲しかったなぁ。

なお、大ヒットした松任谷由実による主題歌「守ってあげたい」は本CDには収録されていないので注意されたい。

※)シューベルトの後期の交響曲は何度も番号が変更されている。映画公開当時はいわゆる「未完成」は第8番と呼ばれていたが、その後の変更によって本記事執筆時点では第7番となっている。実はシューベルトには有名な「未完成」の他にもいくつか未完成の交響曲があり、これらが発見されるにつれ、番号に含めるのか、含めるなら何番にするのかといった議論が出てきたものの、定説としてのコンセンサスが得られておらず、その時々の専門家の解釈によって変更されてきたのである。

リスト(サウンドトラックB級グルメ)へ
音楽の羅針盤 トップページへ

リンクはご自由にどうぞ。

Copyright (C)Since 2008 Amasawa