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ファイブスター物語(ストーリーズ)

Tomoyuki Asakawa

朝川 朋之

VDR-1590 / ビクター音楽産業(株)

演奏者:不明

「今年一番の収穫だった」と、季刊誌「宇宙船」の当時のサントラ紹介のコラムで他の実写映画のサントラを押しのけて評されていた。本来日本のヒーロー・特撮ものを中心とした雑誌だが、上記のコラムではハリウッドの映画を中心に広いジャンルのサントラを紹介していたため、良くそのページだけ立ち読みしていた(スミマセン)。しかし、アニメではディズニーなどハリウッドもの以外が取り上げられること自体が珍しかったと記憶している。また、ビデオのカタログ雑誌でも殊さら音楽が褒められていた。単発の劇場用アニメの音楽がこれだけ話題になることは異例なのではないだろうか。この作品はこの年の日本アニメ大賞音楽部門最優秀賞を受賞しているが、それも実に納得がいく結果である。

作曲者の本名は小栗豊といい、大島ミチルと同じJOC(ヤマハ・ジュニア・オリジナル・コンサート)の出身である。ハーピスト、ピアニスト、オルガニストとしての顔も持ち、宇崎竜堂率いる竜堂組で田中太郎の名前でハーピストをしていたこともあるという。「コードネームでハープが弾けるただ1人の男」と言ったとか言わないとか。'08年に発売された川井憲次のコンサートのDVDでもハープを演奏しており、紹介されているシーンがあるので動画でお顔を拝することができる。なお、Wikipediaでは男性ハープ奏者は世界的にも珍しいとあり、おそらくその通りなのだが、実はプロのいなかった日本にハープ教育をもたらし、現在の日本のほとんどの奏者が弟子または孫弟子というヨセフ・モルナールも男性なのである。

音楽に話を戻そう。もともとロック好きで自身も演奏するという永野護の原作は、ガリガリに痩せた無機質なキャラクターとかさかさで水気のない画風が特徴で、どう見ても朝川の音楽とはそぐわない気がする。一方、映画では壮大な原作から第1話を約1時間の尺に収めるにあたり、「お忍びの王子様」にスポットを当てたヨーロッパ映画風の万人にわかりやすい宮廷恋愛活劇に仕上げようとしたようである。フランス系の色彩的で甘く華やかな作風が得意な朝川を作曲家に選んだのもこうした演出意図によるものと考えられるが、結果は演出者の予想以上にハマったのではないだろうか。

巨大ロボットものらしからぬ冒頭の華麗なテーマ音楽からすでに聴きどころ満載だが、4曲目「優雅なる脱走」が音楽的にも面白く特にイイ。チェイス・シーンというものは大抵は物語の山場に置かれ、映画音楽の醍醐味の1つと言えるが、ここでもそれは例外ではない。緊張感溢れる冒頭に続いて、超人的なスピードで逃走するファティマ(物語中のアンドロイドを指す言葉)をエア・バイクで主人公たちが追うシーンを優美に彩る疾走感溢れる曲は、朝川朋之の映画音楽中でも屈指の名曲だ。3曲目の「AT THE SUNRISE」のパイプ・オルガンの扱いも良い。アニメの音楽でパイプ・オルガンというと、判で押したかのようにバッハの教会音楽風の音楽が付けられ、正直いつも「またか」と思わされるが、ここではフランス系の柔らかいレジストレーションを用いた上品な音楽となっている。さすがにオルガンにも通暁している作曲者だけのことはあるのだろう、演奏者も記載はないがおそらく本人なのではないだろうか。そして映画ではナレーションをバックに演奏される終曲「エピローグ~ファイブスター物語~」では、「こうして王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ」...とは言わないものの、女声合唱まで加えた壮大なハッピーエンドで現代のチャイコフスキーよろしく幕を閉じるのである。

なお、主題歌「瞳の中のファーラウェイ」はあまり映画とマッチしているとは言い難いが、歌っているのは当時まだアイドル歌手だった長山洋子である。筆者はある偶然から生で聴いたことがあるが、演歌歌手になるとは思わなかった。

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