ジャイアント・ロボ THE ANIMATION-地球が静止する日

Masamichi Amano

天野 正道

サウンド・トラック(I)BCCM-18 / エモーション(バンダイ・ビジュアル(株))

(I)完全版 APCM-5007 / アポロン(株)

サウンド・トラック(II)APCM-5008 / アポロン(株)

サウンド・トラック(III)COCC-11290 / 日本コロムビア(株)

サウンド・トラック(IV)COCC-11447 / 日本コロムビア(株)

サウンド・トラック(V)COCC-11982 / 日本コロムビア(株)

サウンド・トラック(VI)COCC-12716 / 日本コロムビア(株)

サウンド・トラック(VII)TYCY-5584 / 東芝EMI(株)

交響組曲第2番「GR」CACG0017 / (株)CAFUAレコード

いずれも、指揮:天野 正道/ポーランド国立ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団

今となってはすでに音楽でも良く知られた作品であるが、最初にチラシでこのOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の発売告知を見た時はちょっと驚いた。「音楽:天野正道/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団」!外国のオケ、それもワルシャワ・フィルと言えば、伝統あるクラシック専門の楽団だったからだ。

スター・ウォーズの影響によって、日本の多くのSFアニメーションがオーケストラを使い始めた70年代末~80年代頃は、スタジオ・オーケストラでないクラシック系の職業オーケストラを使用する場合には、NHK交響楽団や東京交響楽団などの日本のオーケストラを使用するのが当たり前だったが、この作品以降、日本のアニメやゲームの音楽をチェコ・フィル、イスラエル・フィルなど海外のクラシック専門オーケストラが演奏することが一般的になり、むしろ日本の職業オーケストラを使用することは少なくなっていっている。

ビデオの第1巻が発売されたのは'92年の7月であるが、実はその前の年の年末にソビエト連邦が崩壊している。このため、資金難に陥った東欧圏のオーケストラを安価に使うことができるようになったことが背景にあるだろうと想像されるが、一方で、伝統的な海外のクラシックオーケストラを使うことで商売上は箔が着くという一石二鳥であったと思われる。

作曲者の天野正道はクラシック系の作曲家だが、現代音楽の分野でのオリジナル作品のCDなどはほとんど出ておらず、筆者は三善晃の「交響三章」や矢代秋雄の「交響曲」などの吹奏楽への編曲を手掛けていることを知っているくらいで、アニメの方も安西史孝とのコラボレーションによるシンセサイザー作品をちょっと聴いたことがあるくらいだった。少なくともアニメーション作品で本格的なオーケストラ作品を手掛けたのは本作品が初めてだろう。

さて、当時のSFアニメ界は、ヤマトやガンダムに始まったリアル路線がエスカレートし、キューブリックの「2001年宇宙の旅」の再評価などの影響もあってマニア向けの難解な作品を作るのが流行っていたが、作る方も見る方もそろそろ嫌気が差してきていたのだろう。本作品はそうしたリバウンドから生まれるべくして生まれた作品といえる。横山光輝作品を原作に選んだこと自体からしてそうだが、他にもサブタイトルが明らかに古いSF映画(近年リメイクされたが)から採られていたり、紙芝居を思わせる表現を使うなど、古き良き時代のエンターテイメントへの回帰願望を強く意識させる内容となっている。このため、音楽の方も昔の名画の音楽を連想させる曲が所々登場したりして、往年のサントラ・ファンの方であれば思わずニヤリとさせられるに違いない。

ビデオ本編の発売は全部で足かけ6年もかかっており、特に6話と最終巻である7話とは2年半も空いてしまっている。CDの方は、各話それぞれにサントラ盤が1枚ずつとIの完全版を含めて本編だけで8枚も出ている贅沢さ(この他にサイドストーリー物の番外編も3つある)であり、販売元もアポロン、コロムビア、東芝EMIと変遷している。良く途中で企画が打ち切りにならずに済んだものだ。作品自体の完成度の高さも含めてスタッフの情熱に頭が下がる。CDが多いので少しずつ聴きどころを挙げてみた。吹奏楽の分野で活躍している人だけに金管楽器に比重を置いた大作SF映画の王道のような壮大なオーケストレーションの曲が多い。

(I)全編中、唯一既存曲が使われているドニゼッティのアリア「人知れぬ涙」(歌劇「愛の妙薬」より)が物語のキーとなる「バシュタールの惨劇」を表すテーマとして、以降も様々にアレンジされて登場するが、第1話では特に原曲のままでも使われている。その作品中での使い方があまりに印象的で、他のオリジナル曲を食ってしまう程の存在感である(テノール歌手の名前のクレジットがないのが残念)。オリジナル曲の方はといえば、白眉はやはり「トレイン・チェイス」。列車物といえばエンタテインメント系映画のアクションには欠かせない醍醐味の1つだが、音楽的にも聴き所になることが多く、ここでも5分を超える力作となっている。金管楽器の不協和音によるリズムが印象的だ。また、ジャイアント・ロボのテーマ(序曲のことではない)として、飄々としてどこか諧謔的なマーチ風の曲が登場するが、これは演奏にピアノ12台を使ったというモーリス・ジャール(ジャン=ミシェル・ジャールの実父にあたる)の「パリは燃えているか」(ルネ・クレマン監督)のテーマを明らかに意識したものだ。この他にも、衝撃のアルベルト(敵)の襲撃シーンで使われるマーチ風のカッコイイ曲や、やはりこれがなきゃという「次回予告」など名曲が多くシリーズ第1話として上々の出来栄えである。

(I 完全版)「トレイン・チェイス」のロング・バージョンが聴ける他、「序曲」の第1話の予告編でしか聴けなかったさらに豪華なアレンジが聴ける。

(II)パイプ・オルガンがソロで編入されたり、西部劇風の曲が登場するなど益々ドラマチックに。エンディング・テーマも、内容に合わせて毎回変えるという押井守作品のような心憎い演出であることがここで気付かされる。

(III)「発令! 電磁ネットワイヤー作戦 上海に墜つ…」というタイトルからも想像できるように、第3話は全編中における中間部の山場となっており、子供の頃に東宝映画の伊福部昭のマーチなどにワクワクさせられたことを思い出される方も多いのでは。ここぞというところで、昔の大作史劇映画の音楽で知られるミクロス・ローザによる「エル・シド」の「カリオーラの戦い」や「13人の騎士」に基づいた曲(「発令! 電磁ネットワイヤー作戦」、「フォーグラーの上陸」)が登場し、高揚感を煽る。また、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番を彷彿とさせる曲も登場するが(「巨神激突!!(GR VS ウラエヌス)」「上海に堕つ」)、祖国を失った敵役のイワンに、自身の求める音楽と祖国ソ連の体制下で求められる音楽との乖離に葛藤したショスタコーヴィッチの姿を重ね合わせた、という考えは穿ち過ぎか?

(IV)話も後半に差し掛かり、今度は12分にも及ぶ弦楽四重奏曲を登場させるなど、音楽面でのマンネリ化を防ぐ演出にも力が入る。何と大作のテーマによる予告編の音楽も今回はこのパターンでアレンジされている。派手な(III)の後にジワリと聴かせる(IV)という構成。なお、「G・R復活」はエルガーの威風堂々第1番が元ですね、やはり。

(V)舞台を雪山に移し、「ヒマラヤのエキスパート」、「エマニュエルとファルメール」など作風もオリエンタル色に。また、中でもピアノとクラベスのリズムに乗って過去がフラッシュバックする冒頭に始まる「真実のバシュタール」はとても印象的。さらにエンディング・テーマでは第6話でついに姿を現す敵の首領、ビッグ・ファイアのテーマが初登場、音楽的にも次回作を暗示させる演出となっている。

(VI)音楽的に最も充実している巻。いずれも5分を超える「十傑衆出撃せよ!」や「追憶」がじっくりと聴かせてくれる他、何と言ってもティンパニを中心とした打楽器の掛け合いに続いてホルンのユニゾンでテーマが奏でられる「ビッグ・ファイアの出現」や合唱で始まりスネア・ドラムが刻むリズムに乗って大怪球フォーグラーと静かなる中条の決闘シーンへ進む「運命の聖アーバーエー」のカッコ良さ。続く「壮絶!梁山泊エキスパート戦」の前半はスティーブ・ライヒばりのミニマル・ミュージックになっている。また、次回はついに最終回!という「エンディング・テーマ」は全話のエンディング・テーマ中最も爽快だ(この後2年半も空くとは思わなかった)。

(VII)最終回では、これまで登場したテーマや動機が巧みに織り込まれて多く登場し、総決算といった感がある。特にエンディングテーマでは各テーマがフェードイン・フェードアウトで走馬灯のように次々と登場する趣向になっている(ジョン・ウィリアムスがエンディングで良くやるメドレーと違って音楽的に繋がってはいない)。

なお、ここで作られた素材は交響組曲第2番「GR」のタイトルで独立した吹奏楽曲としても発表されたが、これがマチュア演奏家の間でブレイク、コンクールの人気レパートリーとしてもしばしば登場しており、第3番「GR」も作られている。これらの録音はCAFUAレコードからCD化されているが、本家本元のワルシャワ・フィルによるフル・オーケストラ全曲盤も出ている(この他、「バトル・ロワイヤル」の素材による交響組曲第7番「BR」など、天野正道は自身が手掛けた映画音楽による組曲をいくつか発表している)。

関係ないが、やはり天野正道が音楽を手掛けた深作欣二の実写映画「おもちゃ」のサントラで、国際警察機構のテーマが使い回しされていてビックリ(「夢」)。

リスト(アニメーションの名盤100選)へ
音楽の羅針盤 トップページへ

リンクはご自由にどうぞ。

Copyright (C)2008 Amasawa