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地球へ...(テラへ...)

Masaru Sato

佐藤 勝

COCX-34385~6 / コロムビア・ミュージック・エンタテイメント(株)

指揮:熊谷 弘/コロムビア・シンフォニック・オーケストラ

竹宮恵子の有名な原作に基づく作品であり、'07年にTVアニメーション化もされたがここで紹介するのはそちらではなく、30年近く前の火の鳥2772とほぼ同年代に公開された劇場版の音楽である。長らく一度もCD化されなかったが、LPと同じ構成でCD化されたのに続き、前記のとおりTVアニメーションが製作されたお陰でこれに便乗する形で2枚組の完全版まで出た。これにはレコード時代には未収録だった曲も含まれており、これらが副音声トラックで聴けるレーザー・ディスクが発売されたこともあったが、独立して音盤化されたのは初めてではないかと思う。

監督の恩地日出夫を始めとして、声優陣にも実写映画の俳優を多く起用し、1カットを長時間にしたカット割りや実写的なカメラ目線、生体的なデザインのメカ、緻密な背景などかなり斬新な試みが行われた作品だった。同様に作曲家の選定においても、黒澤明とのコラボレーションや「若者たち」の作曲で知られ、アニメーションはほとんどやらない佐藤勝(実際、他にはパンダを主人公にした日中合作の「シュンマオ物語タオタオ」しかないのではないかと思う)に白羽の矢が立てられた。

当時、宇宙戦艦ヤマトなどの影響でアニメのサウンド・トラックの市場というものが定着してきており、レコードのライナーの対談を見るとこの作品も映画公開に先駆けてサントラを発売する都合上、ほとんどフィルムを見ずに作曲させられたとある。前向きな姿勢で意気込みが語られてはいるが、結果として佐藤本人はこの作品を自身の作品暦の中であまり重要視していなかったのではないだろうか。佐藤の関連本で本作品について触れられることはほとんどなく、筆者の経験では、本人の著書「300/40その画(え)・音・人」の中で、友人の高校生のお嬢さんに「地球へ...」のサントラLPを持っていると言われて驚いた、というエピソードについて語られているのを見たことがあるくらいである。それも、アニメーションの音楽は自分には向かない、との文脈において語られたものであった。

それにもかかわらず、ここではこの作品を推したい。全般に、一定のリズムを基調とした曲が多いが、おそらく画面に合わせて作曲ができないことを解決するための工夫だったのではないかと思う。白眉は「星の海の闘い」で、冷徹に刻み続けるドラムセット、マリンバとティンパニ、コントラバスのリズムに乗った緊張感溢れる音楽が素晴らしい。「友情の勝利」後半は宇宙船の床に取り付けられた舷窓に地球の荘厳な姿が見えてくるシーンの曲で、短い曲ながら画面を見ないで作ったとは思えない出来である。蛇足だけれど、「宿命の二人」に登場するテーマは、やはり佐藤が音楽を手掛けた竹下恵子主演の異色SFスリラー「ブルー・クリスマス」でチャーが歌うテーマ曲にどことなく似ていたりして面白い。

因みにシンセサイザーを好まなかった佐藤が珍しくキーボードを編成に加えており、演奏は永田二朗と、佐藤の弟子であった久石譲(!)である(レコードのライナーでは"久石護"となっている。超メジャーになった今ならそんな間違いはなかったんだろうな)。

ダ・カーポの主題歌、エンディングも良く、特に前者は小田裕一郎のアレンジも面白い。当時、筆者の在住していた市の企画で偶然にも生で聴くことができたという思い出もある。

なお、本題と関係ないが、月刊誌「レコード芸術」に某社の吉松隆の交響曲第2番「地球(テラ)にて」の発売広告が掲載されたとき、タイトルが「地球へ」と堂々と誤記されていて笑えた。あなたももしかして同世代?

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