メイン・タイトル~オーメン2/ダミアン (Main Title ~ Demien:OmenII)

Jerry Goldsmith

ジェリー・ゴールドスミス

GNCE5009(3部作セット版)/ ジェネオン エンタテインメント(株)

1976年、映画音楽界に1つのエポック・メイキングな事件があった。オカルト映画の音楽がアカデミー作曲賞を受賞したのだ。それもバーナード・ハーマンの「タクシー・ドライバー」のような強豪ノミネート作品を押しのけて。作曲者はジェリー・ゴールドスミス。生前、ジョン・ウィリアムスと人気を二分したハリウッド映画音楽界の重鎮である。オカルト映画の音楽というと、はっきりしたメロディもなく、ひたすら陰気な音響が鳴っているのみで、映画を観終わった後にはどんな音楽だったか思いだせなかったりするものである。だが、このオーメンの音楽は、合唱のバイタリティと畳みかけるようなリズムで聴く者を本能的な興奮に駆り立てる。また、随所に見られる音響的な工夫やリズムの掛け合いなど、音楽的にも実に面白く、聴いていて飽きさせない。その強烈な印象は、(特に日本の)映画・アニメ界に「悪魔物といえばミサ曲」という消し難いトラウマを刻み付け、映画公開から数十年経ってもその呪縛に縛り付けてしまっているのだ。例えば日本のアニメでは、TV版サイレント・メビウスの「呪術」(作曲:SUZIE KATAYAMA)や、オーメンの公開から30年後に放送されたやはりTV版の「デス・ノート」(作曲:平野義久)などにその影響を見ることができる。

映画の方は第1作のヒットを受けて第3作まで製作されたが、いずれの音楽も何度も再発される映画音楽の名盤となっている。作曲は全作ともジェリー・ゴールドスミスであるが、以下のように映画自体が1作毎に作風を変えており、音楽の方も3作目で内容に合わせて大きくスタイルを変えている。管弦楽と合唱の編成が拡大されたシンフォニックな音楽になり、音響的にもスタジオというよりコンサート・ホールで録音したような響きになっている。おそらく音楽予算も拡大されたのだろう。「何か素晴らしいことが起こる」という神父の予感に始まり、やがて3つの星が天空で合体してキリスト誕生の光を放つまでの一連のシーンの音楽に見られる高揚感は、なかなか他に類を見ることのできない素晴らしさである。

第1作 : オーメン
   悪魔の申し子ダミアンの誕生と、周囲に巻き起こる不吉な事件の恐怖を描くオカルト映画。
第2作:オーメン2/ダミアン
   陸軍幼年学校を舞台に、13歳に成長したダミアンが悪魔として目覚めるまでを描く「青春映画」。
   軍曹の示唆で自分が悪魔であることを悟り、ショックで泣きながら駆け出すといういかにもなシーンもある。
第3作:オーメン3/最後の闘争
   成人したダミアンと復活したキリストとの闘いを描く、いわば壮大な宗教映画。

さて、ここに挙げた音楽は2作目の冒頭で、「イゲールの壁画」で主人公ダミアンの正体を知ったブーゲンハーゲンが、血相を変えてジープで疾走するシーンに使われた音楽である(CDにはサウンドトラック版とナショナル・フィルハーモニック管弦楽団によるアルバム用の組曲の2種類が収められているが、ここでは筆者の気に入っている後者の方を取り上げる)。シンセサイザーによるビヨン、ビヨンという口琴のような音と低音弦の弾むようなリズムに乗って、第1作目の名テーマ曲、アヴェ・サターニ(Ave Satani : ようこそ、サタンよ)を踏襲したテキストが合唱で歌われるこのスピード感あるテーマによって、聴く者は冒頭から映画の世界に引き込まれてしまう。そして、下降グリッサンドする混声合唱や、蟇蛙のようなダミ声で「おあ!」と発するバスなど、グロテスクな発声法による独特な声楽が、悪魔的なイメージを巧みに喚起して見せるのである。

テキストは「血を啜り、肉を喰らい、サタンの御身を称えたもう...」という如何にもおどろおどろしい悪魔の儀式(黒ミサ)を思わせる内容であるが、これらが単にオカルト映画らしく猟奇的な言葉を並べたのだと考えては早計である。そもそも「ミサ」(聖餐式)とは、かのレオナルド・ダ・ヴィンチの名画でも知られる「最後の晩餐」においてイエスが皆にパンと葡萄酒を分け与えた行いを、後のキリスト教徒が儀式化したものである。パンとはキリストの肉体を、葡萄酒とはキリストの血を意味しており、つまりミサの本質とは「イエスの血を飲み、体を食べる」儀式(聖体拝領)なのだ。実際に、カトリック教会には信者が「ホスティア」なるパンと葡萄酒を司祭から受けて飲み込む儀式があるそうである。要するに、本来のキリスト教のミサの意味を逆手に取るという発想で、反キリストを称える黒ミサの歌詞を作り上げたものなのである。この辺のところは、筆者自身もそうだったのだが、キリスト教にあまり馴染みのない多くの日本人には直感的にわかりにくいところであろう。

よってタイトルのAve Sataniも、Ave Mariaなどから発想したことは想像に難くない。ところで、第1作のレコードなどで、アヴェ・サンターニ(Ave Santani)と表記されている場合があり、この綴りも広まっているようである。しかし、これはどうもこれは誤った表記らしいことを最後に付記しておく。

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