左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ調 作品17 (Piano Concerto for the Left Hand in C sharp, Op. 17)

Erich Wolfgang Korngold

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト

(輸)CPO CD999046

指揮:ヴェルナー・アンドレアス・アルベルト(Werner Andreas Albert) / 北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団
pf:スティーヴン・デ・フローテ(Steven de Groote)

モーツァルトと同じミドルネームを持つこの作曲家の唯一のピアノ協奏曲は、オーストリア生まれのピアニスト、パウル・ヴィットゲンシュタイン(Paul Wittgenstein)の委嘱による左手のための作品である。

パウル・ヴィットゲンシュタインは、第一次世界大戦で右腕を失いながらも、比較的裕福であったこともあって、多くの著名作曲家に左手だけで演奏可能な作品を委嘱し演奏活動を続けたことで知られている。こうして生まれた作品群は、後世の右手が不自由になったピアニストの貴重なレパートリーとなっているばかりでなく、両腕が健全なピアニストにとっても重要なレパートリーとなっている。中でも最も有名なのがラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」とプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第4番」であろう(もっとも、プロコフィエフの作品は委嘱者本人は演奏不可能として演奏しなかったのだが)。この他にも、ブリテン、ヒンデミット、フランツ・シュミット、リヒャルト・シュトラウスらにも作品を委嘱しているが、中でも最初に委嘱したのがコルンゴルトであったという。

19世紀末ウィーンのユダヤ人家庭に生まれたコルンゴルトは、10歳前後の年少時からすでに爛熟した後期ロマン派の和声を駆使して作曲を行い、天才と呼ばれたという。このピアノ協奏曲が作曲された1923年といえば、シェーンベルクによってすでに12音技法が生み出されていたが、こうした現代音楽の潮流にはさほど関心は無かったようである。コルンゴルトにしては特異で近代的と評されることもあるこの協奏曲においても、コルンゴルトらしい甘美で陶酔的なオーケストレーションを随所に聴き取ることができる。その響きには、昔の大作ハリウッド映画のロマンスシーンの音楽などを彷彿とさせるものがあるが、それもそのはず、そもそもマックス・スタイナーやアルフレッド・ニューマンとともに、当時のハリウッド映画(特に活劇映画)の交響楽スタイルを確立した立役者の1人こそ、ナチスの台頭で活躍の場をアメリカに移すことになったこのコルンゴルトであったのだから。そうした交響楽スタイルの映画音楽は、ミクロス・ローザによる史劇映画などの音楽に引き継がれ1つの頂点を築くことになるが、やがてTVの登場による映画人口の減少、肥大化した製作コストの圧縮問題、ロックやジャズ、ポップスといった新しい音楽スタイルの台頭などによって衰退してゆく。それが再び復権を果たすのは、'70年代末にジョン・ウィリアムスによる「スター・ウォーズ」のサントラが異例の大ヒットを飛ばし、SF・ファンタジー映画を中心として交響楽スタイルの音楽が持てはやされるようになってからである。

コルンゴルトの今日最も知られた作品の1つといえばバイオリン協奏曲 ニ長調であろう。そこには「革命児ファレス」や「風雲児アドヴァース」などといったハリウッド時代にコルンゴルトが手がけた映画音楽の素材が多く使われている。ピアノ協奏曲などを作曲していたウィーン時代のクラシック音楽のスタイルをハリウッドに持ち込んで映画音楽の発展に寄与し、今度はそこで得た成果を再び純音楽に反映させるという、コルンゴルトの音楽人生の大まかな流れを、この2つの協奏曲の間からだけでも垣間見ることができる。

なお、余談ながら、何らかの理由で右手が不自由になったピアニストが、左手のためのピアノ作品で演奏活動を続けたというエピソードは、クラシックの音楽史上他にも少なからずあるのだが(近年でも、フィンランド在住のピアニスト舘野泉の例がある)、左右逆の例はなぜかほとんど聞いたことが無い。筆者が知っている例では、映画「戦場にかける橋」の音楽でも知られるイギリスの作曲家マルコム・アーノルドが、2台のピアノ(3手)のための協奏曲を作曲したことくらい。委嘱者は夫婦のピアノ・デュオで、夫の左手が不自由になってしまったためだという。

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