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BASTARD!! - 暗黒の破壊神(OVA)

Kohei Tanaka

田中 公平

1)音楽編 Vol.1 PICA-1001(1992/07/25)

2)Vol.3 続・音楽編 PICA-1009(1993/04/24)

いずれも、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

指揮:田中公平
フルート:旭孝(1A、1B、2)、相馬充(1B)
トランペット:数原晋ほか(1A、2)、中江健次ほか(1B)
打楽器:草刈とも子(1A、1B、2)、春名禎子(1B)、高田みどり(2)
ストリングス:篠崎正嗣グループ今堀恒雄
そのほか
注)1A:交響詩、1B:音楽編サントラ、2:続・音楽編

田中公平は、以前から事あるごとに作曲家には2つのタイプがあると述べている(※1※2)。すなわち、
(1)何でもできるタイプ(デパートタイプ)
(2)それしかできないけどそれのエキスパート(専門店タイプ)
である(実際には、必ずしもどちらか一方に明確に分類できるわけではなく、ある程度の比率でもう一方も混ざっていることが多いと思うが)。そして、尊敬する渡辺岳夫のような前者のタイプを志すため、東京芸術大学卒業後に一旦は就職したものの、改めてバークリー音楽学院に留学したということである。これは、当時クラシックやポップスには自信があったが、ジャズに自信がなかったからだという。そして、当初は自ら職人であることを標榜し、頼まれれば何でも作るとも述べていた(※2)。

ところが、この「BASTARD!! - 暗黒の破壊神」のサウンドトラックを作曲した際、「交響詩」と題してそれらを素材とする4楽章の本格的なオーケストラ作品の作曲機会をも与えられたことから、その心境に変化が訪れる。曰く、これまでのように相手の望むもの、望む作品を作るのではなく、自分の作りたい曲、良いと思う作品を作ることが一番大切なんだと思えるようになったと(続・音楽編CDのライナーより)。そういう意味でこの「バスタード!!」の音楽は、田中公平が自身を「芸術家」としても意識し始めるターニングポイントとなった作品として重要な位置を占めている。

ただ実際には、田中公平にとって本格的なオーケストラ作品の作曲は本音楽編が初めてなわけではなく、音楽編 Vol.1の発売に先行することわずか4か月、同年3月に発売されたCD(※3)のために、交響曲「銀河乞食軍団」と題するこれも4楽章からなるオーケストラ作品を提供している。同作品はアニメのサントラではなく、野田昌宏大元帥(SF界ではなぜかこの称号で呼ばれる)原作による同名のSF小説シリーズ(早川書房)に基づくオーディオドラマのサントラを兼ねたイメージ音楽として作曲されたものである。スペースオペラの音楽であることから想像される通り、もちろん大作SF映画の音楽風になってはいるが、随所に田中公平らしさが感じられ、決してジョン・ウィリアムズの亜流で安易に済ませた内容ではないことはお聴きいただければわかると思う。同CDのライナーでも、「今まで作曲家として作り続けてきたものの集大成、当分、これを凌ぐ作品は書けないと思います」と自負を述べている。それがすぐに次のチャンスが巡って来たことになるが、立て続けにこうした作品を手掛ける機会を得たことが、作曲家としての心境に変化をもたらしたとしても何ら不思議は無いだろう。

同氏はその後も、‘97年に「機動戦士ガンダム 第08MS小隊recorded in PLAHA」(※4)で12楽章からなる組曲を手掛けているが、同作ではついにチェコ・フィルハーモニー管弦楽団メンバーの演奏(指揮はマリオ・クレメンス)による、ドヴォルザーク・ホール(プラハ、ルドルフィヌム音楽公会堂内)での収録が実現している(中でも第Ⅶ楽章における進軍調のトランペットの伸びやかさは、コンサートホールならではの残響も手伝って実に気持ちが良く、大音量で聴きたくなる)。

ところで、萩原一至による同名漫画のアニメ化は、過去に2回行われているが、ここで紹介しているのは、1992年から1993年にかけて販売されたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の音楽編である。残念ながら、サントラ・パートに収録されている楽曲群は、劇伴として成功しているとは言い難い。しかしそれは音楽のせいではない。本来、サウンドトラックは映像との相乗効果で良し悪しが語られるべきであるが、制作スタッフに力量がなかったのか、アニメーション作品そのものが視聴者を物語の世界に引き込むだけの説得力に乏しく、作曲家のイマジネーションに負けてしまっているのだ。サントラだけ先に聴いてあれこれ想像を膨らませて期待するも、実物を見てがっかり、というパターンは決して少なくない。作品として総合的にみれば、’22年にNetflix で放送開始されたWebアニメ版(後にTVでも放送)の方が手堅く無難にまとまっているように思える(ただ、音楽単独で見ると、あくまで劇伴に徹したものであり、あえて本コーナーで取り上げたいとなるとOVA版の方になるというわけである)。

したがって、以下では主に「音楽編」Vol.1の交響詩のパートを中心に語ることにする。物語に登場する人物や国などの多くの名称や用語が、ロック関連のバンド名や人物名等に由来することから、原作者はファンタジーをコンセプトとしたプログレやヘヴィ・メタのアルバム・ジャケット画や世界観からインスピレーションを得て物語を描いていたのではないかと想像される(実際に、漫画の中にそのようなイメージを想起させるシーンが登場することもある)が、作曲において特にロックらしい楽想などは意識されていないように思われる。原作第1話以前の物語を作曲者なりのイメージで自由に想像し、ライト・モチーフ(※5)を用いて正統的な手法で描き出した音楽となっている。楽章の構成は以下の通り。

第1楽章 ”メタ・リカーナ”
物語の舞台となるメタ・リカーナ王国のはるか北方に住むア・イアン・メイデ王国の隊商が、長い旅路を経てメタ・リカーナ王国に到着するまでを描写した音楽。隊商の歩みを思わせる弦楽器の副旋律に乗せて、中東風の主旋律がイングリッシュホルンやクラリネットを経て様々な楽器に受け継がれていく。目的地が近づくと心がはやるように曲のテンポがやや速まるが、メタ・リカーナ王国の城が見えてくるところでトランペットの平行和音による壮大なファンファーレ風の音型が登場する。クラシックの劇音楽などにもありそうな楽曲である。

第2楽章 ”爆炎の魔術師 ダーク・シュナイダー”
主人公ダーク・シュナイダーをイメージした音楽。冒頭は、魔法の呪文を思わせるファゴットのソロを伴って静かに始まる。主要部に入ってからいよいよ登場するダーク・シュナイダーのテーマ(ドミソラドーシ、ソーラ#レーミー、・・・)は聴きどころで、傲慢かつ不遜な態度で大暴れする悪童(といっても400歳以上)の姿が自然に浮かんで来て秀逸である。メロディ・メーカー田中公平の面目躍如といったところか。

第3楽章 ”美の女神たち~イーノ・マータの名において”
ジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」スタイルを踏襲した映画音楽には良く登場するいわゆる「愛のテーマ」に相当する。具体的なストーリーがあるわけではなく、女性キャラクター達をイメージした抽象的な内容となっていて、弱音器を付けた弦楽器の柔らかい音色の上で木管楽器のアンサンブルやホルンのソロが優しい旋律を奏でる。4楽章形式の代表例である古典的な交響曲では、こうした緩徐楽章は第2楽章に配置されることが多いが、第3楽章に配置されているのは全体の流れやバランスを考慮した結果だろう。

第4楽章 ”魔操兵戦争(ゴーレムウォー)~封印”
かつてダーク・シュナイダーが、(物語世界の)4大陸を滅ぼして世界を征服せんと、多数のゴーレムを操って仕掛けた戦争(ゴーレムウォー)をイメージした音楽。魔物たちとの激しい戦いと破壊の様子がシンセサイザーの打ち込みによる伴奏を伴って描かれる、終楽章にふさわしい派手な楽曲である。最後にダーク・シュナイダーが戦いに敗れ封印されるところで、新たな物語を予感させつつ曲は終結部を迎える。

この音楽編の実際の収録日は不明であるが、スコア(※6)の第1楽章表紙に「’92年5月28日(木)午後1:00~」との記載があるため、これが収録予定日時だったのかも知れない。とすればCD発売の2か月前ということになる。因みに交響詩については、翌年の2月に作曲者本人が指揮する新星日本交響楽団により、全曲がコンサートで演奏されてもいる(「機神兵団」の項を参照)。

なお、本コーナーではアルバムのVol.1と3しか紹介していないが、それはアルバムのVol.2が音楽編ではなく、番外編のミニ・ドラマを収録した企画物であるためである。当時のアニメのサントラ・シリーズでは、このような出版の仕方が良くあった。

※1)加藤義彦,鈴木啓之,清田高志 編著,2010,
「私にとっての渡辺岳夫先生」,『作曲家・渡辺岳夫の肖像』,
(株)ブルース・インターアクショズ,p.94~95

※2)「サウンド・クリエイターへの道-アニメ音楽と効果音の舞台ウラ」(LD)
WPLL-8129/ワーナーミュージック・ジャパン

※3)「銀河乞食軍団ハイパーCD BOOK」(‘92/3/21)
VIZL-11/‎ ビクターエンタテインメント(株)

※4)「機動戦士ガンダム 第08MS小隊recorded in PLAHA」(‘97/12/22)
KICA-386/キングレコード(株)

※5)特定の人物や感情、状況などと関連付けた短い主題や動機を指す。楽曲中において、これらを物語の場面展開や状況変化に応じて変形しつつ繰り返し用いることで、ドラマの進行について観客や視聴者の理解を助ける効果がある。ワーグナーが総合芸術としての歌劇として創始した「楽劇」で用いて手法として確立したことで知られ、映画音楽等でも多用されている。近年、TV番組などでライトモチーフを説明する際、わかり易い使用例として必ずと言って良いほど引き合いに出されるのが、通称「ダース・ベイダーのテーマ」(帝国のマーチ)である。

※6)総譜のこと。「田中公平3種の神器」フェアと銘打ったパイオニアLDC(バスタード!!)と東芝EMI(絶対無敵ライジンオー、チャイナさんの逆襲)の共同企画により、抽選で100名に作曲者の直筆サイン入りスコア(スコア自体は直筆譜のコピー)がプレゼントされたことがある。それぞれ各社に提供された音楽のうち、「交響詩バスタード!!」から全曲、「絶対無敵ライジンオーV」のドラマスペシャルから1曲、「チャイナさんの憂鬱」から5曲が選ばれて掲載されている。劇伴用のオリジナルスコアを関係者以外が完全な形で目にすることができる機会はほとんど無いため、貴重な資料となっている。

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