オーケストラものに重点をおいた音楽への非正統派なご案内
Kaoru Wada和田 薫 |
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1)音楽編 PICA-1012(1993/03/25) 2)続・音楽編 PICA-1021(1993/08/25) 3)鋼響歌劇 機神兵団 アニメーションオーケストラの響き(CD) 4)鋼響歌劇 機神兵団 アニメーションオーケストラの響き(LD) いずれも、パイオニアLDC、指揮:和田 薫/新星日本交響楽団 師匠であった伊福部昭がいつも「ゴジラの...」と接頭語付きで紹介されてしまうことに倣うように、弟子の和田薫も「犬夜叉の...」と紹介されることが多くなっている。名刺代わりになる作品があることは必ずしも悪いことではないのだが、知名度の高さを理由に犬夜叉をもってこの作曲家(のサウンドトラック)の代表作とされてしまうのは何だか残念な気がする。 そういう意味で、同作曲家のアニメーション作品の中から筆者が特に紹介しておきたいのは、「マーズ」とこの「機神兵団」である(この他にも「モザイカ」など、力作はいくつかあるのだが)。本作は山田正紀のスチームパンクもののSF小説を原作とするOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)として制作されたが、主人公が大人から少年に変更されるなど、大きく設定変更がなされている。 作品発表当時、プロモーション活動の一環として、「鋼響歌劇 機神兵団」と称してシネマ・コンサート形式(※1)による先行上映が昭和女子大学人見記念講堂で行われ(1993年2月7日)、観客は(確か)抽選ながら無料で招待された(※2)。注釈に書いた通り、コンサートが豪華であっただけではなく、当日上映された第壱巻(これのみ60分)自体もまるで劇場映画のような間の取り方と作画・音楽のクオリティであり(音楽はフィルム・スコアリング(※3)で作曲され、ホールでビデオを流しながら同期録音するという手法が採られている)、久しぶりの大作の予感に、大いに期待して会場を後にしたのである。 …ところが、その後がいけなかった。第弐巻から急に作話レベルがただのTV放送レベルに萎んでしまったのである。聞くところによると、どうも途中で製作会社の倒産という事態があったらしい。そのことが影響したのか、それとも最初からプロモーションを兼ねた第壱巻に資源を集中する戦略であったのかはわからない。ただ事情はどうあれ、OVAとしては異例とも言える大規模プロモーションを行っていながら、これだけの力作が結果として不発に終わってしまったのはサントラの作曲者にとっても不運であったと言わざるを得ない(ご本人がそう感じておられるかはわからないが)。 音楽的には、和田薫のフルオーケストラによる劇伴音楽語法を集大成したとも言える充実した内容になっており、特に2枚リリースされているCDのうち、1枚目(音楽編)に収録されている第壱巻の音楽は、アニメ本編と合わせてかなりの完成度に到達していると言って良いだろう。何よりも和田薫のどろどろとしたアジア的な音楽の特性が、蒸気機関のメカと陸軍の暗躍、そこに得体の知れない異星人の襲撃が絡んでくるという作品の世界観に見事にマッチしているのである。 さて、音楽そのものについて第壱巻からいくつか紹介してみる。アヴァンタイトルに続くオープニングタイトルに流される「メインテーマ」は、蒸気機関のクランクシャフトが回転する映像のイメージを音でトレースした打楽器(おそらくトム・トム)のメカニカルなリズムの合間に、ミュートされたトランペット群のタカタカタッ、タカタカタカタカタッという16音符のリズム動機と、金床を打ち鳴らす「カーン」という音が合いの手で入って来るという、ちょっとアレクサンドル・モソロフの「鉄工場」(バレエ音楽「鋼鉄」より)やアルテュール・オネゲルの「パシフィック231」に代表される機械主義的音楽を思わせるもので、そこに和田薫らしい(トロンボーン、チューバを主軸とする)重低音の楽器群のユニゾンと男声合唱によるバイタルで邪悪な感じの主旋律が被ってくる。もうそれだけで、冒頭から観客はスチームパンクの蒸気とオイルの世界へと一気に引きずり込まれてしまう。 全編の白眉は「大志、激走!」。自転車で逃走する主人公の大志を関東軍(敵役)の乗用車が追跡するチェイスシーンの音楽で、コミカルなフレーズや雷神の勇壮なテーマを組み合わせ緩急取り混ぜた展開により、第壱巻中盤のクライマックスを築いている。 そして「雷神、出撃セヨ!」、これはもうタイトルを聞いただけでおわかりのように、この手のSF映画が好きな方には熱くならずにはいられない音楽である。冒頭はジョン・ウィリアムズのスーパーマンのテーマのように、一定のリズム動機が単音から次第に音が積み重なって厚い和音へと発展し盛り上がっていくが、もちろんこの和音は伝統的な西洋音楽のそれではなく、伊福部昭に連なる作曲家ならではの東洋風のものとなっている。そして、勇壮な雷神のテーマが、弦楽器とホルンのユニゾンに続いて、男声合唱のヴォカリーズ(母音唱法)で被さってくる。 この他、本サントラには「鉄砲(つつ)と花」という和田薫自身の作曲による挿入歌もあり、戦火の中の家族の心情を思わせる、なかなかの名曲である。和田薫の抒情的な旋律で多用される特徴に漏れず、この曲も出だしはラドレで始まる(この音階は民族音楽学者の小泉文夫による分類でいう民謡音階にあたる)。この類例としては、「3×3EYES」の「パイ~慕情~」や「銀河戦国群雄伝ライ」の「憂情(元気な紫紋)」などを挙げることができるが、この曲に限ってはボーカル曲であることから、歌手の音域に合わせたのか、実際には例外的に移調がなされている(実音はレファソ)。 以上、曲数自体が多い上に第壱巻以外にも音楽的には十分聴けるものが少なくないため、語りだせばきりがないが、特に印象深い第壱巻の楽曲についていくつか紹介した。この作品は、一応DVD化もされたものの、おそらくOVAの歴史の中に埋もれてしまうであろう。しかし、少なくとも音楽はサントラ盤の名作として後世に残して欲しいと思うものである。 ※1)当時は今ほどシネマ・コンサート形式での上映は一般的ではなかった。アベル・ガンス監督の映画「ナポレオン」を復元し、音楽をオリジナルのアルチュール・オネゲルによるものではなく、映画監督のフランシス・フォード・コッポラが実父のカーマイン・コッポラに作曲を依頼したものに差し替えたバージョンが、日本でも’82~’83にシネマ・コンサート形式で上映されたことがあるが、その10年後の当時でもまだまだ珍しい企画であった。 ※2)機神兵団の上映のみならず、和田薫の「交響詩サイレント・メビウス」の第1楽章や、田中公平の「交響詩バスタード」の全曲(!)が作曲者本人の指揮で演奏された他、「ジャングル大帝」や「宇宙戦艦ヤマト」等も演奏された大変豪華なコンサートであった。この模様は、レーザーディスクやCDにも収録されたが、残念ながらコンサートのすべてではなく抜粋である。なお、「機神兵団」の音楽は当日向けの特別バージョンだと紹介された。 ※3)言葉通り、映画のための音楽を作曲することを意味するが、暗黙的に、できあがった映像に同期させて作曲(尺合わせ)する意味を含んでおり、本サイトでもその意図で使用している。劇場映画等では多くの場合フィルム・スコアリングによって作曲されるが、これに対して予算や時間の制約が大きいTV番組の連続ドラマやアニメでは、音楽監督(または音響監督)に提示されたメニューに沿って予め作り置きしておいた楽曲を映像に合わせて編集して使う、いわゆる「溜め録り」が一般的であり(TVアニメでも初期の手塚作品や「鬼滅の刃」のような例外もある)、その場合は通常フィルム・スコアリングとは呼ばれない。なお、「葬送のフリーレン」のように両手法が併用される場合もある。 |
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