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マーズ

Kaoru Wada

和田 薫

APCM-5054(1994/12/16)/(株)アポロン音楽工業(株)

演奏者:不明

横山光輝の同名漫画は、広く一般に知名度が高いとは言えないものの根強い人気があるらしく、これを原作とするアニメ化が過去に3回行われている。このうち、ここで紹介するのは1994年にケイエスエスよりOVAとして発売された「マーズ」で、同原作の2回目のアニメ化作品にあたる。

ケイエスエスという会社は現在はもう存在しないが、「おいら宇宙の探鉱夫」やこの「マーズ」は、同社がOVAに参入したばかりの制作当時、とりあえず2話だけ発売して売れたら続きを作るという方針だったらしい。どちらもクオリティの高い作品であったにもかかわらず、結局予定していた全話数を制作することなく2話で打ち切られてしまっている(「マーズ」の第3話は、第2話の後に収録された予告編のみが存在する)。「マーズ」の原作を先に読まれていた方は、あの衝撃のラストが原作通りになるのかどうかが一番気になるところであったろうと想像するが、続きはかろうじてソノラマ文庫のノベライズで知ることができるのみとなっている。

本作品のサウンドトラックを担当した和田薫は、「機神兵団」の項でも書いたがどうもついていないように思える。少なくとも筆者が思うところでは、「機神兵団」(途中でアニメ自体のクオリティが失速)とこの「マーズ」の2作品こそ、同作曲家のサウンドトラック作品群の頂点を成す作品として推したい出来栄えであるからだ。

筆者が初めて和田薫の名を目にしたのは、人類が滅亡した5000万年後の動物を想像して描いたドゥーガル・ディクソンのロング・セラー図鑑「アフターマン」を原作に、朝日放送開局40周年記念番組として製作された「アフターマン〜5000万年後の動物たち」('90年)の音楽でであった(想像上の動物は、当時は使えるCG技術はまだ無く、人形アニメーションで撮影されていた)。いずれも1年後に制作されたOVA「3×3 EYES」(サザンアイズ)の八雲のテーマや「英雄凱伝モザイカ」のモルカのテーマが、前者は馬の疾走シーンや収斂進化の解説シーンに、後者はタマオシコガネ(フンコロガシ)やトゥア・チュート(想像上の生物)のシーンにすでに使用されている。そしてその後に聴いた「3×3 EYES」の、低音楽器を偏重した密林や秘境を思わせるドロドロとした重厚感と、民族打楽器を多数使用した躍動感を併せ持つ音楽に、すっかり魅了されてしまったのであった。

この「マーズ」は、そんな和田薫の特質が、「機神兵団」とは少し違った側面で発揮された作品である。全体的に原始主義的でバイタルなリズムをより前面に押し出した楽曲構成で、特に和田薫の特質である師(伊福部昭)譲りのリズムオスティナート(執拗に同じリズムを繰り返す技法)と頻繁に拍子を変える可変拍子が頻出し、地球の命運をかけた謎と戦いとに彩られたストーリーの重苦しさやサスペンス感を高めることに一役買っている。本サントラにはコミカルな曲や抒情的な曲は一切ない。

まずは、謎のロボットタイタンと海上自衛隊の護衛艦「こんごう」との闘いを描いたトラック3の「怪ロボット タイタン襲来」からトラック5の「ミサイルハープーンS」までが、早くもアバンタイトルから大きな見せ場(聴きどころ)となっている。弦楽器と打楽器(おそらくトムトム)による5拍子を中心とする可変拍子の執拗なリズムが、海中からのタイタン接近の緊迫感を強調し、「こんごう」から発射されたハープーンSによってタイタンが破壊されるまでを緩急取り混ぜてスリリングに描き出している。このようにリズムの反復で緊迫感を煽る技法について、ジョン・ウィリアムズの「ジョーズ」との類似性がCDのライナーでも指摘されている。しかし、リズムの反復が、「ジョーズ」のように対象の姿が見えていなくても音楽が始まっただけでサメが忍び寄っていると観客に思い込ませる("思い込ませる"と書いたのは、実は子供のいたずらだった、という観客に植え付けた先入観をわざと外してみせるシーンもあるため)というよりも、強大なパワーで迫りくる脅威を直接的に強調する用途で使用されている点において、「ジョーズ」とは演出的な性格を異にしている。

トラック9の「音響測定艦『ひびき』撃沈さる」は、低音弦楽器の単調なリズムの上に一聴すると不規則に聴こえる(実は繰り返しの)打楽器によるアタックが入るという、これもリズム主体の構成により切迫感を高めている。トラック24の「ガイアとオルトス」でも、後半でこれと同じ曲が少し変形して用いられている。

トラック13の「ウラヌスアタック」は、短いながらも筆者にとって最も印象に残った曲である。空中からマーズに敵対するロボット「ウラヌス」が接近、冒頭の弦楽器のダウンボウ(※1)による不規則にアクセントが付けられたリズムに続いて、弱音器を付けたトランペットが白玉音でクレッシェンドしながら、ビルの屋上にいるマーズに向けて「ウラヌス」が熱線を発射するシーンを音でなぞってみせる。そして、続くティンパニの複前打音を伴うアタックをきっかけに、マリンバを伴う重厚かつ土俗的なリズムに曲想が転換、マーズが主人公山口玲子と姪の晴美を守ろうと、二人を両脇に抱きかかえて屋上からジャンプした後の急降下シーンにリアリティと迫力を与えている(ここでマーズが人間を超えた能力の持ち主であることが明らかになる)。時折入るティンパニの「タカタン」という合いの手が実にカッコいい。

この曲は、トラック26の「死闘!ガイア対オルトス」でもオーケストレーションを変えて登場する。ここではリズムの重量感をやや増強してある。また、トラック13ではマリンバのリズムに被せてクラリネットで静かに入っていた同音型の繰り返しによる伴奏パートを、ここでは弦楽器に置き換えることでより目立たせてあり、延々と繰り返される2体の巨大ロボットの攻防の様子を補強している。

そしてトラック16(第1話)と29(第2話)の「エンドタイトル」では、ダダダダダッ、ダダダッという4拍子のリズムに乗って、メロディラインで重苦しいテーマが奏され、最後は疑問符のような不安感を残したままで静かに終える。このテーマは、物語冒頭の海底火山の噴火でできた「秋の島新島」で、全裸で立っている少年(マーズ)が発見されるシーンで、ホルンによってミステリアスに登場しており(トラック6の「目覚めたマーズ」)、そのままタイトルバックのショッキングな和音へと続いている。

以上、代表的な楽曲をいくつかピックアップして紹介した。なお、本CDにはこうしたオーケストラ曲の他に、主役級の声優3名がそれぞれ歌ったボーカル曲が3曲収録されているが、いずれもアニメ本編では使用されていないイメージソングである。

最後に「マーズ」の他の2つのアニメ化作品について少し触れておく。最初のアニメ化作品であるTVシリーズの「六神合体ゴッドマーズ」(’81年)は原形をとどめないほどに設定を変更されてしまっており、そもそも「マーズ」の純粋なアニメ化とは言い難い面がある(因みに音楽は歌謡曲のアレンジャーとしても広く活躍した若草恵)。また、3回目のアニメ化作品である「神世紀伝マーズ」は、比較的原作に忠実かつ全13話完結したらしいが、筆者はレンタルビデオ屋で一巻を借りてみて失望してしまい、音楽的にも単独で聴く価値を感じることはなかった。返す返すも傑作になる予感を感じさせた2回目の「マーズ」が打ち切られたことが惜しまれる(※2)。

※1)下げ弓ともいい、弓の根元側を弦に当てて弓を下げて音を出す奏法で、力強いアタックが得られる。

※2)驚くべきことに?途中で打ち切られたにもかかわらず、この作品はのちにDVD化もされている(「おいら宇宙の探鉱夫」も同様)。また、VHSの少なくともレンタル版で見た限りでは、内閣官房長官の髭やヘリコプターが消えたりするなどの作画上の粗があったが、レーザーディスク化された際には修正されていたことも付記しておく。

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