オーケストラものに重点をおいた音楽への非正統派なご案内
Kentaro Haneda羽田 健太郎 |
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1)「マクロス・ザ・コンプリート」VICL-40031~33(1992/03/21) 2)「愛・おぼえていますか」音楽編 VICL-231057(1995/05/03) いずれも、ビクターエンタテインメント(株) 指揮:羽田健太郎 羽田健太郎のアニメ音楽の代表作を挙げるのであれば、本来ならTVシリーズの方を挙げるべきであるように思われるが、あえて映画の方を取り上げたのには理由がある。 本サントラには重要なテーマが2つあり(※1)、主題歌/挿入歌(およびそのインスト版)を除いて映画で実際に流された全35か所の劇伴曲のうち、16か所においてこれらのテーマが使用されている。映画「マグニチュード 明日への架け橋」(’97、音楽:佐橋俊彦)のように、1つのテーマが執拗に繰り返して使用されていたり、あるいは映画「メテオ」(’79、音楽:ローレンス・ローゼンタール)のように、2つのテーマが米ソそれぞれの武装人工衛星に割り当てられていたりといった類似例が他に無いわけではないのだが、わざわざここで本作品を紹介するのは、後で述べる通りテーマの使い方において珍しいアプローチが採られているからである。 「マクロス」というシリーズは、とかく歌+美少女(男性の場合もあるが)+変形メカというトレードマークで語られがちである。しかし、最初のTVシリーズの魅力は、ユーモア仕立ての(※2)豊富なSF的アイデアを基軸に展開していく、まさにセンス・オブ・ワンダーと言えるストーリーにこそあったのではないだろうか。 そして、ここが音楽上の重要な点なのだが、CDのライナーの解説によれば、前述の2つのテーマは「青春のテーマ(若者のテーマ)」、「普遍なる人の愛のテーマ」と呼ばれてはいるが、完成後の映画においては(例外はあるものの)いずれも特定のキャラクターに紐づけて使用されており、それぞれが主人公と三角関係を成す「リン・ミンメイ」、「早瀬未沙」という2人のヒロインを象徴するテーマとして位置付けられていることは明白である。 つまり、同一のメロディに対して如何に多彩なアレンジが行えるか、あるいはどれだけ多様な音楽スタイルやアレンジの引き出しを持っているか、ということが作曲家に問われていると言っても過言ではなく、アレンジャーとしても多方面で活躍する羽田健太郎の腕の振るいどころともなっている。 以下にヒロインのテーマという視点から、それらが使用されている楽曲について概観してみることにする。「リン・ミンメイ」と「早瀬未沙」のどちらに紐づいたテーマのアレンジであるかは、M番号(曲名)の横に[ミ][未]のように記号を付して示した。このM番号は、1)のサントラに基づいている。2)のサントラのライナーでもM番号が付されているが、これは単にCDの収録順に番号を並べたもので、映画本来のM番号とは関係無いようである。また1)のライナーには、このM番号に基づいて音楽発注時点でのBGMメニューが掲載されているが、以下でこれを参照する場合は単に「メニュー」と呼ぶ。 なお、詳細は個々の楽曲の解説において述べるが、2つのテーマを2人のヒロインと関連付けるというコンセプトは、おそらく作画と作曲の作業が同時進行で進められるタイトなスケジュールの中で次第に固まっていった発想で、当初の構想では言葉通り「青春」と「愛」を象徴する予定であったものと筆者は推察している。[ミ]の方は「ミンメイ」=「青春の憧れ」といった構図になっているのか、メニュー時点から使い方にそれほど大きな変化は見られないが、[未]の方は、当初から映画本編や主題歌のテーマになっている「愛」を象徴するメインテーマと位置付けられており、「普遍なる人の」とあるように、輝と未沙との関係に関わらず、愛と関連付けて広く使用される予定だったと思われる。 M-1:永遠の愛-プロローグ-[未] M-6 [未](構想時のみ) M-7[ミ] M-11:ラブ・モーメント[ミ] M-12[ミ] M-13[未] M-14、15:ティーンエイジ・ドリーム[ミ] M-21:映画未使用曲[未](構想時のみ) M-22:映画未使用曲[ミ] M-23:廃墟の星[未] M-26:サイレント[未] M-27:映画未使用曲[未] M-28:都市浮上[未] M-29:エターナル・ラブ[未] M-30: 映画未使用曲 [未](構想時のみ) M-37:揺れ動く心[ミ]~[未] M-11: ラブ・モーメント[ミ] M-39[未] M-41A[ミ]~[未] M-29: エターナル・ラブ M-41B: ここより永遠に・・・-エピローグ-(映画未使用曲)[未] 以上、2つのテーマに関連する音楽について概観したが、それ以外の音楽についても未使用や差し替えなどがあり、当初の構想だったと思える曲に差し替えて聴いてみると映画の印象もずいぶん変わる。結果的に映画で未使用に終わった曲までサントラ盤で入手できることは大変興味深いことであり、映画制作者がどのように考えて最終的な音楽配置を決めていったのかを想像してみることもまた、サントラを聴く醍醐味の1つと言えるのではないだろうか。 ところで、ハネケンこと羽田健太郎がダジャレ好きであることは広く知られていることと思う。池辺晋一郎と並んで作曲界のダジャレ王の双璧とも言えるのだが、この「マクロス」においても、演奏しているオーケストラに「ヘルシー・ウィングス・オーケストラ」(健羽楽団?)と名付けたのは、本人ではないのだろうか? それにしてもこのオーケストラ、結構謎である。サントラを聴いていると、金管が音を外したり、アンサンブルが乱れていたりと、TVシリーズも含めて妙に演奏の粗が目立つ。ビクター、東芝EMI、キングレコード、コロムビアといった会社から販売されているサントラにおいて演奏を担っているスタジオオーケストラは、専属というより普段別の演奏活動も行っている演奏家の寄せ集めだったりするが、そうは言っても演奏家としては一流どころの寄せ集めである。他のサントラでそのような粗のある演奏は聴いたことが無い。TVシリーズでは海外発注による作画がレベル的に問題であったことは良く知られた事実であるが、もしかするとそれと同様に、演奏家も(演奏者名が公表されている一部のソリストを除いて)音大生のアルバイトとか、海外の安い演奏家への発注とか、そういった普段とはちょっと違うメンバーだったりするのだろうか? なお、最後に補足ながらTVシリーズのサントラに関してなのだが、「パッション」という曲においては、ピアノの最高音域に近い音が一瞬聴かれるところがある。この辺りの音域になると、もうピアノの弦の音というより、キンキンいう打撃音にしか聴こえないのだが、ピアノにおいてこのような右端に位置する鍵盤を使用した楽曲というのを筆者は他に聴いたことが無い。何気なくさらりとユニークな工夫がされていたりもするようである。 ※1)構想上テーマは4つ設けられていることになっているが、残り2つは戦闘に関するテーマであり、物語の骨格に影響するほど重要なものとは言えないように思える。 ※2)最初のTVシリーズは、当初はコメディとして企画されていたため、そのタッチが残っているように思われる。それをシリアスなSFドラマの観点で見て面白いと思うか、ばかばかしいと思うかは好みが分かれるところだと思うが、重力制御システムがマクロスの甲板を突き破って飛び去ってしまった後の ※3)人の声をサンプリングして、キーボードのように演奏できるシンセサイザーの一種。リアルな生の声のままではなく、電子的な音に変質されるため、ボーカロイドのような音声になる。例えばイエローマジックオーケストラの「TOKIO」や、三枝成章(現、成彰)の「ラジエーション・ミサ」などでその音を聴くことができる。 |
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