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超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか

Kentaro Haneda

羽田 健太郎

1)「マクロス・ザ・コンプリート」VICL-40031~33(1992/03/21)

2)「愛・おぼえていますか」音楽編 VICL-231057(1995/05/03)

いずれも、ビクターエンタテインメント(株)

指揮:羽田健太郎
ヘルシー・ウィングス・オーケストラ

羽田健太郎のアニメ音楽の代表作を挙げるのであれば、本来ならTVシリーズの方を挙げるべきであるように思われるが、あえて映画の方を取り上げたのには理由がある。

本サントラには重要なテーマが2つあり(※1)、主題歌/挿入歌(およびそのインスト版)を除いて映画で実際に流された全35か所の劇伴曲のうち、16か所においてこれらのテーマが使用されている。映画「マグニチュード 明日への架け橋」(’97、音楽:佐橋俊彦)のように、1つのテーマが執拗に繰り返して使用されていたり、あるいは映画「メテオ」(’79、音楽:ローレンス・ローゼンタール)のように、2つのテーマが米ソそれぞれの武装人工衛星に割り当てられていたりといった類似例が他に無いわけではないのだが、わざわざここで本作品を紹介するのは、後で述べる通りテーマの使い方において珍しいアプローチが採られているからである。

「マクロス」というシリーズは、とかく歌+美少女(男性の場合もあるが)+変形メカというトレードマークで語られがちである。しかし、最初のTVシリーズの魅力は、ユーモア仕立ての(※2)豊富なSF的アイデアを基軸に展開していく、まさにセンス・オブ・ワンダーと言えるストーリーにこそあったのではないだろうか。
表題の戦艦マクロスは拾った宇宙船で実はブービートラップ、フォールド(超空間転移)航行システムはマクロスを冥王星軌道付近まで弾き飛ばして消滅、主砲は船内の市街地の破壊と引き換えに船体を変形(トランスフォーメーション)しなければ撃てない、せこいバリアはエネルギー不足で船体をピンポイントでしか守れない等々、ロボットアニメとしての体裁は何とか維持しつつも常道を外した設定が実にユニーク。
それが、劇場版という2時間枠の作品としてリメイクされるにあたって、主人公一条輝と2人のヒロインとの三角関係をクローズアップしたラブ・ストーリーとして生まれ変わることになった。異星人を、TVシリーズには無かった、男女別々の敵対種族に分けるという設定変更がなされたことも、物語の焦点が男女関係に置かれていることを裏付けている。

そして、ここが音楽上の重要な点なのだが、CDのライナーの解説によれば、前述の2つのテーマは「青春のテーマ(若者のテーマ)」、「普遍なる人の愛のテーマ」と呼ばれてはいるが、完成後の映画においては(例外はあるものの)いずれも特定のキャラクターに紐づけて使用されており、それぞれが主人公と三角関係を成す「リン・ミンメイ」、「早瀬未沙」という2人のヒロインを象徴するテーマとして位置付けられていることは明白である。
単に登場人物にテーマを割り当てるというだけであれば、映画音楽としては当たり前の手法のように聞こえるかも知れない。しかし、テーマから特徴的な動機(モチーフ)を抜き出してライトモチーフ的に用いるというよりは、テーマのメロディラインはほぼ原形のままでそれぞれのヒロインの登場シーンで執拗なまでに使用し、音楽的な意図はしばしば音楽スタイル(ジャンル)の境界をも超えるアレンジの違いによって表現している点が特徴的なのである。

つまり、同一のメロディに対して如何に多彩なアレンジが行えるか、あるいはどれだけ多様な音楽スタイルやアレンジの引き出しを持っているか、ということが作曲家に問われていると言っても過言ではなく、アレンジャーとしても多方面で活躍する羽田健太郎の腕の振るいどころともなっている。

以下にヒロインのテーマという視点から、それらが使用されている楽曲について概観してみることにする。「リン・ミンメイ」と「早瀬未沙」のどちらに紐づいたテーマのアレンジであるかは、M番号(曲名)の横に[ミ][未]のように記号を付して示した。このM番号は、1)のサントラに基づいている。2)のサントラのライナーでもM番号が付されているが、これは単にCDの収録順に番号を並べたもので、映画本来のM番号とは関係無いようである。また1)のライナーには、このM番号に基づいて音楽発注時点でのBGMメニューが掲載されているが、以下でこれを参照する場合は単に「メニュー」と呼ぶ。

なお、詳細は個々の楽曲の解説において述べるが、2つのテーマを2人のヒロインと関連付けるというコンセプトは、おそらく作画と作曲の作業が同時進行で進められるタイトなスケジュールの中で次第に固まっていった発想で、当初の構想では言葉通り「青春」と「愛」を象徴する予定であったものと筆者は推察している。[ミ]の方は「ミンメイ」=「青春の憧れ」といった構図になっているのか、メニュー時点から使い方にそれほど大きな変化は見られないが、[未]の方は、当初から映画本編や主題歌のテーマになっている「愛」を象徴するメインテーマと位置付けられており、「普遍なる人の」とあるように、輝と未沙との関係に関わらず、愛と関連付けて広く使用される予定だったと思われる。
このように考える理由は、そうでなければ説明しにくい痕跡が残っているからで、その1つは、メニューではそれぞれのテーマの使用が指定されていながら、完成後にはそのテーマが使用されていない楽曲の存在である。またもう1つは、映画の場面変化に同期して音楽の曲調が変化する部分が多数あることから、全般にフィルムスコアリング(尺合わせ)で作曲されていると思われるにもかかわらず、作曲された通りに使用されていない曲の存在である。サントラ盤収録曲において、該当するM番号の位置で使用されていなかったり、TV版の既存サントラに差し替えられていたりして未使用になっているものが散見されるほか、映画本編で短くカットされて使用されている曲もある。これらのことは、音楽の完成前から調整が入っていたとともに、完成後の音楽に対しても、編集による最終調整が行われた部分が少なからずあったことを示唆している。

M-1:永遠の愛-プロローグ-[未]

映画のオープニングを飾る重厚な曲で、全体としてはテーマのアレンジとは言えないが、マクロスからバルキリー隊が発進するシーンで[未]の後半、マクロス市街のシーンでその前半が使用される(つまりテーマの原形に対して曲の前後が逆転している)。音楽とタイミングは一致しないものの、マクロスの艦橋に未沙がいる情景が最初の方で映っているので、一応テーマと人物が暗に関連付けられてはいる。ただ実際には、映画のメインテーマでもある「愛のテーマ」をオープニングで提示しておくという、当初からあったであろう音楽意図以上の意味はないように思われる。

M-6 [未](構想時のみ)

ゼントラーディ軍の攻撃によるマクロスの重力制御システムの損傷で、衛星タイタンの重力に引き寄せられて、車やテーブル等の器物とともにミンメイが落下を始めるシーンに使用される。ミンメイとの最初の出会いとなる救出シーンにつながっていくため「愛のテーマ」という構想だったのか、メニューでは[未]が指定されていたが、結局このテーマは使用されず、重力が失われた浮遊感を叙景的に描写しただけの独立した楽曲となっている。つまり、ミンメイのシーンでありながら[未]が使用されるはずだった曲が、ここで1曲削られたことになる。

M-7[ミ]

エンジンブロックの閉鎖区画に落ちて孤立状態となった輝とミンメイが初めて知り合うシーンの音楽。マクロスがタイタンから発進する際に、重力制御が効かずに無重力状態となって2人が浮き上がってしまうところで、弦楽器のピツィカートアンサンブルによるちょっぴりコミカルな序奏が始まり、次いでサックスによる[ミ]となる。体勢を安定させるコツをつかんだミンメイが無重力遊泳に興じるシーンでTV版挿入歌「0-G Love」のアレンジを挟み、最新式ライトホログラフィの服を光らせてミンメイが飛行するところからストリングスによる[ミ]に戻る。この曲は、場面展開との同期が良く取れており、映画のカットと音楽ともに当初の目論見通りに完成したのではないかと思われる。

M-11:ラブ・モーメント[ミ]

ミンメイが歌手になることを決意し家を飛び出すに至った身の上話を輝に語って聞かせているところから、ハープの伴奏を伴ったフルートソロによる室内楽風の[ミ]が始まり、両親を思い出したミンメイは地球がどうなったかを案じる。ミンメイの主演映画で、相手役男性との真に迫ったラブシーンが気になる輝に、「あんなの演技でできんのよ。ビジネスよ。」と答えるミンメイが、「やってみせましょうか」と輝に迫るところで弦楽器のピツィカートアンサンブルによるいたずらっぽい間奏となり、ラブシーンの真似事をするところからサックスによる色気を帯びたジャズ調の[ミ]となる。2人はそのまま浮遊しながらのキスシーンとなるが、音楽が終了したところで、駆け寄ってきた芸能リポーター達にスクープされてしまう。この曲も、場面展開との同期が良く取れている。

M-12[ミ]

小隊の先輩後輩が輝の船室になだれ込んで来て、ミンメイとのスクープについてはやし立てるところから始まり、マクロスの女性隊員達が喫茶店で口さがない噂話をしているところまで使用される。中間部にサックスのアドリブが挿入されるディスコ調アレンジだが、唯一、直接画面に登場している人物に紐づけるのではなく、話題の背後にいる人物を暗示する役割でテーマが使用されている箇所である。

M-13[未]

TVの無責任なスクープ番組に嫌気がさしてミンメイがTVを閉じてしまうところから開始される。冒頭のストリングスの部分しか使われないため映画を見ただけでは気付きにくいが、[未]である。M-6が[未]ではなくなったため、物語前半のミンメイとの出会いから離別までのミンメイ関連のシーンにおいて、この曲は例外的に残った[未]となる。 [未]の使用はメニューでも指定されており、当初からの構想だったようであるが、一方で「青春の傷、クラシカル」と説明されていてメニュー自体も矛盾して見える。この曲を「愛のテーマ」としたのは恋愛スクープだから、という解釈もできなくはないが、映画全体の音楽配置の流れからすると、この解釈にはちょっと無理がある。
実はこの曲を同じ位置から最後まで流してみると、そのまま次のバーのシーンに続き、はっきりと[未]が現れる。フォッカーが「男と女のすばらしさを教えてやる」と輝と未沙に見せつけるようにクローディアに覆いかぶさってキスをするので2人が戸惑ったような顔をするところで曲調が変わり、その後輝が思いがけぬミンメイからの誘いの電話に飛び出していくところでちょうど曲が終わる。
つまりこの曲は、元々は同時進行する2つのシーンを「愛のテーマ」によって1つのシーケンスとして連結する意図であったことが、最後まで流してみて初めてわかるのであって、ミンメイのシーンまででカットされたことにより、当初の意図が失わされているのである。このシーンの曲は結局、劇伴ではなく劇中曲(店内のBGM)として、TVシリーズでも喫茶店のBGMとして使用されていた「マイ・ビューティフル・プレイス」のインスト版に差し替えられている。よって、この店内シーンの音楽にM番号が無いのも、元々M-13がそこまで流れている予定だったからと考えられる。最終的に前半のミンメイのシーンだけに[未]が残されたため不自然な感じになってしまっているが、他に差し替えられる適当な曲もなく、目立たないのでそのままとしたということかも知れない。

M-14、15:ティーンエイジ・ドリーム[ミ]

輝とミンメイの初デートシーンで使用される。序奏部分でチューブラーベルの「キン、カン、コン、カン」とスレーベルの「シャン、シャン、シャン、シャン」という音が鳴らし続けられるクリスマスの音楽のような楽しい雰囲気のアレンジ。2つのM番号が付されているのは、メニューでそれぞれ別の曲として想定されていたためと思われる。実際にこの曲は、市街やアミューズメント施設でのデートシーンと、輝がミンメイをバルキリーに乗せて土星の輪を飛行するシーンとの2か所に分けて使用されているが、後者のシーンの音楽はメニューで「大空を駆ける(大空を飛ぶ爽快感)」と説明されており、M-15はこの曲とは異なる音楽がイメージされていたのだろう。両曲の間には、ミンメイがバーガーショップのお客に声を掛けられそうになって2人で逃走するシーンがあり、そこにストリングスによるブリッジ的な短い楽曲が1曲挿入されるのだが、この曲にM番号はなく、CDにも収録されていない。メニューに無かった曲を後から書き足してもらったのかも知れない。M14では、2人がホログラフィによってウエディング衣装姿になるところで一旦[ミ]がスローテンポになる尺合わせが行われている。

M-21:映画未使用曲[未](構想時のみ)

メニューで「壮絶、フォッカーの死」と説明されているショックを受けたような短い楽曲であり、フォッカーの死とともにその搭乗機が爆発するシーンを想定したものと考えて間違いないと思うが、映画ではTV版の「涙のバイオリン」に差し替えられており使用されていない。メニューでは[未]が指定されているが、その理由に関する筆者の解釈については、この曲と関連の深いM-30のところで説明する。

M-22:映画未使用曲[ミ]

オーボエのソロにより、[ミ]の珍しい短調バージョンが演奏される悲哀感のある楽曲であるが、未使用である。メニューでは「ミンメイ悲運、連れ去られる」として[ミ]が指定されており、M-21とM-23の間というタイミングから考えても、救出に失敗したミンメイとの別れを象徴するはずだったのではないかと想像できる。実際に、ブリタイ艦のフォールドで輝たちの機体が弾き飛ばされてミンメイと離れ離れになる辺りからこの曲を流してみると、概ねブリタイ艦が消失する辺りで終了し、辻褄も合う。
なお、映画前半のここまでは[ミ]が中心的に使用されている。

M-23:廃墟の星[未]

ここからは輝と未沙の荒廃した地球での放浪生活の場面が続き、2人の仲が接近するまでの流れを描くため、[未]が使用され、[ミ]はM-37まで使用されない。 弾き飛ばされた輝と未沙の乗る機体が、廃墟と化した星に不時着した時に使用される孤独な感じの曲で、[未]がハープやグロッケンシュピールの装飾を伴ってパンフルートのソロで演奏される。映画では一旦曲が途切れて、輝と未沙が空母「プロメテウス」の残骸を発見し、ここが地球だと悟るシーンで曲の1'50"辺りから再開される。ただし、この後半部分は衝撃を感じさせる音楽になっていて、[未]ではない。

M-26:サイレント[未]

雨が降り注ぐテントの中、心労のために寝込んでしまった未沙の傍らで輝が深海魚のような得体の知れない魚を焼いているところから、クラシックギターの伴奏によるハーモニカのソロで[未]が始まる。次いで輝が焼いた魚を未沙に勧めているシーンでテーマは途中からオーボエのソロへと引き継がれる。勝ち目がないと未沙が諦めの感情を吐露するところで再びハーモニカによる[未]に戻る。任務のことしか頭にない無機質な堅物と思われた未沙が、人間らしい弱さを垣間見せるシーンである。

M-27:映画未使用曲[未]

戦闘調のゆったりとした打楽器のリズムの合間にホルンによる[未]の断片が挿入されるところから始まり、幻想的な楽句やメカニカルなリズムが挟まる楽曲であるが、映画では使用されておらず、M-26の次はM-28となる。メニューでも「未知への誘い(少々サスペンス風に)」と記されているのみで、具体的にどのようなシーンを想定したものか明確ではないが、M-26とM-28の間という位置関係から考えると、輝と未沙の前で都市宇宙船のコンピュータが突然動作を開始し、プロトカルチャーと巨人型異星人、そして地球人類との衝撃的な関係を語り始めるシーン辺りではないかと想像する。
試しに未沙の操作でフォールド通信機が動作を始めたあたりからこの曲を流してみると、概ね管理コンピュータの立体映像が消失するシーン辺りで終了するため、尺の長さと言う意味では不自然ではない。そうなると、輝と未沙の距離が接近していく一連のシーンの1つではあるが、メニューの時点からすでに[未]が指定されていたのは、「愛」とは逆説的ながら、ゼントラーディ(男性)とメルトランディ(女性)の起源に関するシーンだから、とも考えられる。

M-28:都市浮上[未]

輝と未沙の来訪を2万年待ちわびたプロトカルチャーの帰還と誤判断した都市宇宙船が、最後に残されたエネルギーを使って洋上に浮上するシーンから始まり、未沙が都市宇宙船から異星の古代語でレクチャーされた地球に辿り着くまでのいきさつを輝に話して聞かせるシーンで終わる。ラヴェルかドビュッシーのような印象派クラシックの音楽を思わせるアレンジで、オーケストラにヴォカリーズ(母音唱法)による女声合唱が加わるが、肉声のような電子音のような何とも判別しがたい音色だと思っていたら、CD2)のライナーの解説によると、肉声にボコーダー(※3)の音を重ねてあるのだとか。

M-29:エターナル・ラブ[未]

短い序奏に続いて、ギターとハープの伴奏を伴ったオーボエのソロで[未]が始まる、ムード音楽調のアレンジで、都市宇宙船のシンクで食器類を見つけた未沙が「変わらないのね」とつぶやき、家事の真似事を始めるところから始まる。探索から帰って来た輝に「おかえりなさい。さぁ、食事にしましょう。」と楽しそうに食器を並べる未沙の姿に初めて女性らしさを感じて見とれる輝。そのまま2人でディナーの真似事を続けるが、食器が水に落ちた音に未沙がはっとするタイミングで音楽も総休止の部分となり、そのまましばらく音楽は中断、未沙が泣き出す。「帰りたい、みんなのところへ。」と泣く未沙に輝が手を差し伸べたところで、総休止後の1'43"辺りから音楽が再開し、そのまま2人のキスシーンとなる。

M-30: 映画未使用曲 [未](構想時のみ)

メニューで[未]が指定されているが、M-21とオーケストレーション違いの同じ曲であり、このテーマは使用されていない。また、「クローディアへの辛いメッセージ」と説明されており、無事マクロスに帰還した輝と未沙がフォッカーの死をクローディアに報告するシーンでの使用が想定されていたはずであるが、映画ではTV版の「悲しみのメロディ」に差し替えられていて未使用である。
M-21と同じ曲であることから見えてくることは、当初の構想ではフォッカーとクローディアとの愛の象徴として、M-21とM-30のシーンを「愛のテーマ」で結び付けようとしたのではないだろうか、ということである。完成した曲では結局、両シーンを関連付ける構想だけが残り、輝と未沙が映っているシーンでありながら2人の恋愛とは関係ない音楽から[未]の使用が削られたことになる。最終的にはさらに他の曲に差し替えられてしまっているが、M21よりはマイルドになっているとは言え、ショッキングな感じが完成後のこのシーンにマッチしなくなったのだろう。

M-37:揺れ動く心[ミ]~[未]

物語終盤で、輝が己の気持ちを自覚し、ミンメイへの気持ちを吹っ切って未沙への気持ちをはっきりさせるシーンで使用される。音楽もその流れに沿って[ミ]から[未]へと変化していくが、この展開はメニューでも指定されている。このシーン以前での2つのテーマの使用は、ここへ至るための布石であったと言えるだろう。
輝に会いに船室を訪れたミンメイが、輝に抱き着くところでピアノのソロのみによるイージーリスニング風の[ミ]が始まる。そこに、都市宇宙船で入手したメモリープレートに刻まれた文章が、ゼントラーディ軍に古くから伝わるメモリープレートに記録されていたメロディの歌詞ではないかと気づいた未沙が、いち早く輝に知らせようと船室に入ってきて2人と鉢合わせし、「これが何だか憶えてる?」とメモリープレートを突き出したところで音楽は一旦中断する。
次のサックスの間奏部分はカットして、輝の「ちょっと待って。違うんだよ、それは君の誤解...」と未沙に語る台詞で、ドラムセットとギターの伴奏を伴うピアノソロの部分から[ミ]が再開。輝の「街の中でミンメイの歌を聴いた時、...」の台詞辺りからサックスの間奏に入るが、「わかったんだ、いつまでも側にいて欲しいのは君だってこと。」の後、ストリングスによる[未]の後半部分へと引き継がれる(この曲では[未]の前半部分は使用されていない)。そのまま2人の抱擁シーンとなり、曲が終わるか否かという所で第一級非常態勢の警報が鳴る。

M-11: ラブ・モーメント[ミ]

M-37とM-39の間には実際には3曲ある。M-38は同じ冒頭を持つTV版の「ドッグ・ファイター」に差し替えられており、その後にM-19とこのM-11の2曲が既出M番号の使い回しで使用される。
ミンメイが輝に差し出された歌詞カードを見て言う、「そんなもの歌ったって勝てる見込みなんてないじゃない!」の台詞に重ねる形でM-11冒頭のハープの伴奏を伴ったフルートソロの[ミ]が始まる。「あなたとあたし以外、みんな死んじゃえばいいのに!」の辺りでオーボエのソロの部分になるが、輝がミンメイの頬を平手でひっぱたいた後に、「君はまだ歌が歌えるじゃないか!」と言うところで、窓外の戦闘を背景に音楽終了。

M-39[未]

M-11終了後のミンメイがしばらく考え込むシーンでは、音楽は無く窓外には戦闘中の様子が見える。ミンメイが思い直した素振りを見せるところで、M-39の2'02"の辺りからストリングスによる晴れやかな感じの[未]の後半部分が開始。「ここで歌わなかったら、死んじゃったお父さんやお母さん、浮かばれないわ。」という言葉に、安堵した表情になった輝が「ミンメイ...。」と答えるところで音楽終了。その後にミンメイの「あたし歌うわ、思いっきり!」という台詞が続く。
ここもミンメイのシーンでありながら[未]が使用されている。これは当初からの構想で主題歌「愛・おぼえていますか」につながる部分だから「愛のテーマ」ということだったのではないだろうか。M-39は上記の通り途中から使用されているが、未使用の前半は、ヴァイオリンソロとストリングオーケストラによる沈んだ気分の曲を基調として、主題歌の「おぼえていますか」と歌う部分に由来するモールス信号のようなモチーフが2回ほど暗示的に割って入る構成になっており、元々このシーンではこの曲をもっと前の部分から流す予定だったと考えて良さそうである。
試みに、M-39の使用された部分の開始タイミングが一致するように映画と重ねて最初から流してみると、曲はラプラミズ艦の爆発の辺りから始まり、上記の「おぼえていますか」のモチーフは、輝がミンメイを平手打ちする辺りと、「君はまだ歌が歌えるじゃないか!」と言われてミンメイがうなだれて考え込む辺りになり、曲全体の変化のタイミングも画面の流れと良く一致する。ミンメイの気持ちの変化を、音楽を暗から明に変化させることで表現する予定だったものを、暗の部分ではあえて音楽を鳴らさない方がより良いと考え直し、かつ曲の前半も[ミ]を使用したM-11に差し替えたのだろう。メニューでは「乱れる心」と説明されており、[ミ]から[未]へと変化させるように指定されているが、完成曲ではなぜかその通りにはなっておらず、編集によって指定通りになった部分と言える。M-11の位置にM番号が無いのも、元々ここからM-39が流れている予定だったからと考えて良さそうである。

M-41A[ミ]~[未]

戦いが終わって歓声が上がる中、ゆったりとしたストリングスで[ミ]が開始。ほっと一息する未沙の肩にクローディアが手を置いて頷く。艦橋の艦長や女性隊員達が伸びをしたり眠りこけたりしているシーンを背景に、メロディがフルートとオーボエのユニゾンに引き継がれるところからベースの進行がピツィカートによるバッハの「G線上のアリア」風となる。マクロス市街のカットからホルンのユニゾンによる[未]に変わり、「これからが、大変ですな」と語るエキセドルとブリタイの会話シーンへと移る。曲の終結部で、歌い終わったミンメイが眺めていた歌詞カードを静かに畳むところで音楽終了。メニューでも「戦いのあと、穏やかな安堵」となっていて、[ミ]から[未]に変化させることが指定されており、その通りに作曲されている。

M-29: エターナル・ラブ

既出M番号の使い回しである。ミンメイが艦橋に立つ未沙と向き合って歌詞カードを差し上げたところで一旦シンプルなピアノソロによる「愛・おぼえていますか」(M-LAST)が奏されるが、そのまま閉じていた眼を開いてにっこり微笑むあたりでこの曲が冒頭から開始され、未沙も頷いて微笑み返すところからオーボエソロによる[未]となる。クローディアが未沙の横へやって来て「結局何だったのかしら、あの歌」というと未沙が答える。「ただの流行歌よ」「流行歌?」「何万年も昔に異星人たちの街で流行った、当たり前の、ラブソング...。」その後、[未]のソロがトランペットに引き継がれるあたりから、ミンメイがつま先でリズムを取って「ワン、トゥー、スリー、フォー」と繰り返す。そして音楽がリタルダンドして総休止になるところで音楽は終了し、スポットライトが消えて画面は次第にフェードアウトしていく。その後、真っ暗な画面を挟んでエンディング主題歌「天使の絵の具」へと続いて字幕となる。

M-41B: ここより永遠に・・・-エピローグ-(映画未使用曲)[未]

この曲はタイトルからもわかる通り、上記のM-29の位置で使用されるはずだったものが差し替えにより未使用になった曲である。メニューでも「理解、確執を超えて」と説明されており、[未]が指定されている。M-29とほぼ同じ位置から流してみると、クローディアが未沙の横へやって来る辺りから[未]となり、M-29の終了位置よりもっと後の、画面がフェードアウトして真っ暗になるところまで続いて終了する。そこで一呼吸おいて、ミンメイの「あ、ワン、トゥー!」という掛け声とともにエンドクレジットとなる流れである。エピローグで「愛のテーマ」である理由は、当初からの意図を踏襲していると考えれば自明であり、M-29に差し替えられてもその点は変わっていない。ただ、もしこちらの音楽にしていたら、いかにもエピローグと言う感じで盛り上がり、エンディング主題歌を前にして終止感がやや強すぎたかも知れない。

以上、2つのテーマに関連する音楽について概観したが、それ以外の音楽についても未使用や差し替えなどがあり、当初の構想だったと思える曲に差し替えて聴いてみると映画の印象もずいぶん変わる。結果的に映画で未使用に終わった曲までサントラ盤で入手できることは大変興味深いことであり、映画制作者がどのように考えて最終的な音楽配置を決めていったのかを想像してみることもまた、サントラを聴く醍醐味の1つと言えるのではないだろうか。

ところで、ハネケンこと羽田健太郎がダジャレ好きであることは広く知られていることと思う。池辺晋一郎と並んで作曲界のダジャレ王の双璧とも言えるのだが、この「マクロス」においても、演奏しているオーケストラに「ヘルシー・ウィングス・オーケストラ」(健羽楽団?)と名付けたのは、本人ではないのだろうか?
(注:映画の字幕では「ヘルシーウィングオーケストラ」と表記されているが、このような表記は他の公式な発行物では見たことが無い。)

それにしてもこのオーケストラ、結構謎である。サントラを聴いていると、金管が音を外したり、アンサンブルが乱れていたりと、TVシリーズも含めて妙に演奏の粗が目立つ。ビクター、東芝EMI、キングレコード、コロムビアといった会社から販売されているサントラにおいて演奏を担っているスタジオオーケストラは、専属というより普段別の演奏活動も行っている演奏家の寄せ集めだったりするが、そうは言っても演奏家としては一流どころの寄せ集めである。他のサントラでそのような粗のある演奏は聴いたことが無い。TVシリーズでは海外発注による作画がレベル的に問題であったことは良く知られた事実であるが、もしかするとそれと同様に、演奏家も(演奏者名が公表されている一部のソリストを除いて)音大生のアルバイトとか、海外の安い演奏家への発注とか、そういった普段とはちょっと違うメンバーだったりするのだろうか?

なお、最後に補足ながらTVシリーズのサントラに関してなのだが、「パッション」という曲においては、ピアノの最高音域に近い音が一瞬聴かれるところがある。この辺りの音域になると、もうピアノの弦の音というより、キンキンいう打撃音にしか聴こえないのだが、ピアノにおいてこのような右端に位置する鍵盤を使用した楽曲というのを筆者は他に聴いたことが無い。何気なくさらりとユニークな工夫がされていたりもするようである。

※1)構想上テーマは4つ設けられていることになっているが、残り2つは戦闘に関するテーマであり、物語の骨格に影響するほど重要なものとは言えないように思える。

※2)最初のTVシリーズは、当初はコメディとして企画されていたため、そのタッチが残っているように思われる。それをシリアスなSFドラマの観点で見て面白いと思うか、ばかばかしいと思うかは好みが分かれるところだと思うが、重力制御システムがマクロスの甲板を突き破って飛び去ってしまった後の
艦長:「や、ひどい艦だな。」
未沙:「拾ったものを使うからです。」
艦長:「いや全くだよ。」
という会話はなかなか忘れがたい。

※3)人の声をサンプリングして、キーボードのように演奏できるシンセサイザーの一種。リアルな生の声のままではなく、電子的な音に変質されるため、ボーカロイドのような音声になる。例えばイエローマジックオーケストラの「TOKIO」や、三枝成章(現、成彰)の「ラジエーション・ミサ」などでその音を聴くことができる。

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