オーケストラものに重点をおいた音楽への非正統派なご案内
Yasuo Higuchi樋口康雄 |
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1)全曲 市販メディアなし 指揮:金洪才(キム・ホンジェ) / 友田啓明合奏団 2)抜粋 30141-25(LP)/(株)バップ 指揮:金洪才(キム・ホンジェ) / 友田啓明合奏団 初めてこの編曲を聴いたとき、冒頭から「あっ!」と思った。樋口康雄のピツィカート多用癖は、この作曲家を知る人には良く知られた特徴の1つではあるが、まさかプロムナードをピツィカートのアンサンブルで処理してしまうとは思わなかったのだ。ファンなれば「そう来たか!」、とハタと手を打ち思わずニヤリとせずにはいられないところである。しかし、筆者はそれ以上に「ピアノ協奏曲版」という題材に聴く前から魅かれてしまったのだった。一見、有名なピアノ版と管弦楽版を足しただけの安直な発想にも思えるのだが、だからこそ質の高い編曲は意外と難題なのではあるまいか。筆者は1つも聴いたことはないのだが、他にもピアノ協奏曲版の編曲はいくつか存在している。例えば、これ以前の編曲では1977年のレナード版が、以降の編曲では比較的知られた1994年のナウモフ版などがあるが、どうも部分的にラヴェル版の影を引きずっていたり、原曲から大きく逸脱している部分があったりして、スタンダード足りうる評判を得ているものが無いようなのだ。 ここで挙げた演奏は、別項(ヴァイオリン協奏曲「KOMA」)の紹介でも述べたが、FM東京で「さあ、楕円音楽会だ!」(※)と題して放送された'84年の演奏会の実況録音であり、原曲の10曲から以下の7曲が選ばれて編曲されている(バップレコードからかつて「ダブル・フォーカス」のタイトルでLP化がされたこともあるが、そちらは収録時間の都合で「古城」全部と「カタコンブ」の後半が割愛されてしまっている)。 プロムナード(ピツィカート) 「楕円音楽」あるいは「ダブル・フォーカス」とは、焦点(円でいう中心)が2つある楕円の特徴になぞらえて、複数の音楽ジャンルへのクロス・オーバーを表現したもので、この演奏会ではジャズとクラシックを指している。おっと、そこでガーシュインのラプソディ・イン・ブルーみたいなものを想像してはいけない。 この編曲を良く聞いてみると、主旋律にあたる部分はほとんど管弦楽が受け持っている。もしも、ピアノの音を全部消してしまったとしても、だいたい原曲の骨格は追えるはずである。しかし、その逆ではそうはいかないだろう。ではピアノは何をしているのかというと、この管弦楽と時に重なり合い、時に掛け合いを演じながら、自由気まま気に転げまわり装飾を加えているのである。「ピアノ」と「管弦楽」が対等な2台の楽器による二重奏のように対峙しながらも、前者はジャズ、後者はクラシックのフィーリングを残したまま融合ではなく2つの焦点を持つ楕円として調和しているのだ。だから、ピアノがジャズ・ピアニストの高瀬アキなのも納得というわけ。その特質が良く表れているという意味で、聴き所は「卵の殻をかぶった雛の踊り」と「バーバ・ヤーガの小屋」だろう。おそらく楽譜はきちっと書き込まれているのであろうが、グリッサンドやクラスターのような不協和音を交えながらギュワーン、ぴゃらぴゃら、グチャグチャと弾きまくる様(さま)にチラと山下洋輔の顔まで浮かんでしまったりする(そこまで破天荒ではないが)。そしてラストの「キエフの大門」では、ピアノと管弦楽が手を取り合って大団円へ向かい盛り上げていくのである。 大衆を置き去りにせず、かといって阿ることもせず、「これが僕の音楽さー!」といつも少年のような軽やかさで僕らの想像を超えていく、そんな作曲家によるもっともっと演奏されて良いピアノ協奏曲版である。「こびと」のピツィカートとピアノの掛け合いなどから、時折フワリと立ち上るジャズの香り。今夜あたりステレオの前に座って、どっかのコマーシャルじゃないけれど、ウィスキー片手に久しぶりにまた聴いてみるかな。 ※)FM放送時のタイトルの正確な表記について、"展覧会の絵"研究会様の調査結果を参考にさせていただきました。ご協力感謝いたします。 |
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