天使のたまご

Yoshihiro Kanno

菅野 由弘

32ATC-108 / (株)徳間ジャパン

指揮:熊谷 弘/東京コンサーツ

カンヌ映画祭に初のアニメーション作品を出品し(イノセンス)話題となった押井守監督が、’86年に制作した日本のオリジナルビデオアニメーション(OVA)の音楽。押井監督といえば、実写映画「赤い眼鏡」以来、ほとんどの作品の音楽を川井憲次が手がけているが、本OVAはそれ以前の作品である。今でこそ押井守の芸術的傑作として知られているが、内容が難解でケレン味がないためとても商業ベースに乗るような作品ではなく、製作者側の不評を買ったのであろう、発表後は長期間にわたって全く仕事の依頼が来なくなってしまったという。とはいえ、アニメーター出身ながら今では版画家としてピカソ作品を手がけた工房からも声がかかるようになった天野喜孝の美術と、他に類を見ない独特の世界観で商用アニメーション音楽の1つの到達点を示したとも言える音楽により、BGVとしても理屈抜きで鑑賞に耐えるものとなっているのである(フランス人には受け入れられてもアメリカ人には受けないだろうな)。

音楽を担当した菅野由弘は、クラシック系の現代音楽の作曲家であるが、この作品には情熱を注いでいたという(第一こんな作品、もう1度作られるチャンスはそう簡単にないだろうな)。NHKの大河ドラマ「炎立つ(ほむらたつ)」の音楽のように雄大で親しみ易い作風の作品も書くが、本作は菅野自身が「波の断片」と呼んでいる手法を始め、古典的な音楽では使われない手法が多用されており、紛うことなき現代音楽作品だ。にもかかわらず、その透明な音楽にそれほど難解さはなく、むしろバロック音楽のように典雅で美しい。

アルバムには「水に棲む」というサブタイトルが付けられているが、これが音楽全体に要求されたコンセプトなのであろう。編成も色彩感の強い管楽器族を一切排した弦楽オーケストラをベースとしており、これに混声合唱や、ピアノ、チェレスタ、チェンバロ、グロッケンシュピール(鉄琴)、ビブラフォンといった(打)鍵盤楽器、また、ガムランのゴングらしきものまで含む多数の打楽器やシンセサイザーが編入されていることに加え、弦楽器は弱音器をつけるかスル・タストで奏するなどアルコ(通常奏法)を避けることで、透明で無彩色な音響設計が行われている。

映画やビデオのサウンドトラックの常で、「スターウォーズ」のような一部の例外を除いてほとんどの場合楽譜は手に入らないため、細かいことは想像するしかないが、以下、いくつかの曲を選んで解説を試みた(音楽の羅針盤 天使のたまご 個別楽曲解説)。

なお、本作品と類似の手法を用いた純音楽作品に、”ソプラノ、シンセサイザー、ピアノと2人の打楽器奏者のための「砂の都市」”(FONTEC FOCD3184)がある。音楽の友社から楽譜も出版されているので、比較してみるのも一興だろう。

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