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ヴァイオリン協奏曲「KOMA」 (Violin Concerto "KOMA")

Yasuo Higuchi

樋口 康雄

1)WPCR11193 / ワーナーミュージックジャパン(有)

指揮:高原守 / ニューヨーク・フィルハーモニア室内管弦楽団
Vn:オスカー・ラヴィーナ

2)市販メディアなし

指揮:金洪才(キム・ホンジェ) / 友田啓明合奏団
Vn:漆原啓子

ジャズやクラシックなど、様々な音楽の間をクロスオーバーして渡り歩く樋口康雄の音楽は、焦点が2つある図形に喩えて「楕円音楽」と称され、音楽事務所のマークもそれを象ったものとなっている。

この曲はそうした樋口のクラシカルな側面を体現した1曲。わずか12分程度の曲ながら優美な抒情性にあふれた知る人ぞ知る名曲で、コンサートでも何回か演奏されている。ただし、樋口の主な活躍の場が純粋なクラシックの世界ではなかったことと作曲技法上の新規性が無いためと思うが、現代音楽方面での知名度はあまりないようだ。構成は厳格な協奏曲形式ではなく、1楽章で自由に展開されている。

またこの曲を手塚治虫が気に入ったことから、オリジナル劇場用アニメーション「火の鳥2772~愛のコスモゾーン~」のサウンド・トラックの作曲に当時27歳の作曲者が起用され、管弦楽編成に書き改められてテーマ音楽として使われたこともよく知られている( 火の鳥2772 ~ 愛のコスモゾーン~)。当然ながら、映画に合わせて順序が変更されたり割愛されたりした部分もあるのだが、主人公の誕生から青年になるまでの成長を描いた音楽と映像のみの長いシーンに使われ、比較的原曲に近い構成となっている。

この映画版の独奏ヴァイオリンの演奏は当時17歳の千住真理子だったが、独奏者の技巧的な演奏がやや鼻につかないでもない2つの原典版の演奏に比べると、最も素直で情感たっぷりなこの演奏が筆者は一番気に入っている。ただし、このような表現付けは演奏者の解釈の違いばかりではなく、決して演奏家の技巧を聴かせるのが目的ではない映画音楽というものの演出意図もあるだろう。オスカー・ラヴィーナの演奏は音符を付点気味にしたリズムの揺らしが入っていて、よく懐メロのリバイバルで元の歌い方ではなく旋律を揺すっていることがあるが、あんな感じだ。漆原啓子の方は、ソロをグイーっと溜めて溜めて引っ張ったかと思うと、表面をスルスルとなぞるように弾き流したりといった感じがする。

因みにこの漆原版は、FM東京で「さあ、楕円音楽会だ!」(※1)と題して放送された'84年の演奏会の録音である。この演奏会はレコードにもなったが、残念ながらLP1枚の収録だったため抜粋されたり割愛されたりした曲があり、このヴァイオリン協奏曲に関してはワーナーのレコードに収録されていたため優先度が下がったのであろう、バッサリ割愛されてしまっている(その代り、アル・ヴィズッティ独奏のトランペット協奏曲は丸ごと収録された)。そのようなわけでディスクのない漆原版はともかく、千住版とラヴィーナ版に関してはオーケストレーションの違いも含めて比較してみると面白いだろう。

なお、標題の「KOMA」だが、最初はドイツ語の「昏睡」のことかと思った。どうも日本語らしいと知ってからは、ずっと「独楽」だと思っていた。文献などで由来が紹介されたのを見たことはなかったが、その後発売されたこのCDの解説を良く良く読むと、前半に併録されている曲の標題に注意しろ、という一言が。ORIENTATION "A THOUSAND CALABASHES"(千成"瓢箪")! 言われずとも気付いた方も多かっただろうが、よもやそんな由来(駒)であったとは...。 しかし、FM番組でのインタビューによると(※2)、本人はこの2曲の関係について、そのようなダジャレで解説されることを嬉しく思っていないようだ。曰く、ORIENTATIONには「東に向く」という意味がある。東とはニューヨークを指しており、ニューヨークに向けて書かれたこの曲が間違いなくニューヨークに届くには、羅針盤(ジャイロ・コンパス)すなわち「KOMA」が必要だ、というのだ。...ってことは、結局「独楽」だったのか!?

※1)FM放送時のタイトルの正確な表記について、"展覧会の絵"研究会様の調査結果を参考にさせていただきました。ご協力感謝いたします。

※2)FMフェスティバル特別番組(第1回)「マックスファクター"フェイム"コンサート ニューヨーク室内楽団の調べ」(タイトルの由来については、読者の方から情報提供いただきました。ありがとうございました。)

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