リスト(アニメーションの名盤100選)へ
音楽の羅針盤 トップページへ

新世紀GPX サイバーフォーミュラSAGA/SIN

Toshihiko Sahashi

佐橋 俊彦

1)SAGA vol.1 AYCM-522

2)SAGA vol.2 AYCM-538

3)SAGA vol.3 AYCM-561

4)SAGA vol.4 AYCM-565

5)SAGA「ディレクターズカット THE BEST CORRECTION 性(SAGA)」
      AYCM-585

6)SIN vol.1 “POWER” AYCM-641

7)SIN vol.2 “LOVE” MECB-28102

いずれも、(株)エアーズ
演奏者:不明

「新世紀GPX サイバーフォーミュラ」(フューチャーグランプリ サイバーフォーミュラと読む)は、元々は主人公である風見ハヤトの年齢が14歳に設定された、年少者向けのTV番組として始まった。その後、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)に制作が引き継がれてシリーズ化されたが、TV放送開始時点からの実経過年数に沿って主人公の年齢も引き上げられ、それに伴って視聴者の対象年齢も引き上げられていっている(つまり、固定ファンと同じ速度で成長している)。そして、主人公が19歳になったSAGAから、サウンドトラックの作曲家もTVシリーズ時代の大谷幸から佐橋俊彦にバトンタッチし、大きくイメージを刷新している。

佐橋俊彦はかなり芸域が広い作曲家だと思うのだが、この「サイバーフォーミュラSAGA/SIN」との出会いは、まさに映像作品と同作曲家の一期一会と言って良いのではないかと思う。同作曲家は他にも、サントラとしてはかわぐちかいじ原作のTVアニメ「ジパング」(自衛隊のタイムスリップもの/'04年)や万城目学原作の実写ドラマ「鹿男あをによし」(‘08年)といった中々捨て難い仕事をしているし、’04年にはロンドン交響楽団の演奏による「交響組曲 機動戦士ガンダムSEED」といった大作SF映画レベルの堂々たる音楽も物しているのだが、どうも「サイバーフォーミュラ」(以下CFと略す)のピアノとストリングスを主体としたサントラの、一歩突き抜けた感には及ばない気がする。溜め録り方式にならざるを得ないことの多い連続ドラマのサントラにおいて、CFほど緻密に映像とのシンクロを考慮した音楽設計が許される機会に恵まれたことは、作曲家にとっても大きな幸運だと思う。

さて、まずはSAGAの方の紹介から。物語の舞台は2020年、テクノロジーの進歩とともにCFレースもマシンの技術開発競争の様相を呈していた。そんな時、レースに勝てずスランプに悩むハヤトの前に彗星の如く現れた謎のマシン「アルザード」は、グランプリで驚異的なタイムを叩き出して優勝し、周囲の度肝を抜く。しかもドライバーのフィル・フリッツは経験が浅く実績もない新人であった。ハヤトは、結局速いマシンを手に入れたものが勝つのかと自棄的になり、次第に恋人あすかとの関係もぎくしゃくし始めるが、実はフィルの強さにはある秘密(※1ネタバレ注意)があった。そして、圧倒的な強さを見せつけるアルザードの存在を前に、レーサーたちの葛藤と闘いのドラマが始まる...。

と、このような物語からも想像される通り、本作は数々のデッドヒートシーンに加えてミステリー要素も絡んで来るケレン味たっぷりのアニメであり、サントラも必然的にスピード感とスリルのある音楽が多くなっている。サントラアルバムは、8話分の音楽が平均2話分ずつ収録されていて、SAGAだけで計4枚も出ている(さらにもう1枚、上記5)の特別企画(※2)もある)ため、筆者の趣味でピックアップした楽曲に特に焦点を当てて紹介することにする。

アルバムvol.1には第1話と第2話の音楽が収録されている。トラック2の「GPX」は、主題歌を除くとアルバム最初の劇伴で、第1話の冒頭を飾るグランプリ最終戦(シドニーサーキット)の開幕シーンの音楽である。ドラムセット、エレキギター、ストリングスをベースとしてメロディラインをブラス・セクションが担う編成に、エコーのかかったピアノ(キーボードか?)の装飾が乗るあたりが、F1のイメージビデオのBGMあたりにいかにもありそうな感じを受けるが、このような作りはあえて狙ったものだろう。いよいよレースが始まる熱狂的な気分を感じさせてアルバム冒頭から以降の曲を期待させる。

トラック3の「KNIFE EDGE BATTLE」はタイトルから期待される通り、ハヤトが最終戦レースでデッドヒートを繰り広げるシーンの音楽である。ここではメロディの主題が対位法的に書かれていて、冒頭は3パートに分かれたこの主題がバッハに代表されるフーガのように、時間差で追いかけるように始まる。この曲は様々な場面で形を変えて登場するが、フーガを取り入れたのは中々に冴えたアイデアで(※3)、曲が始まると気分は一気にフルスロットルへと切り替わる。その後、熾烈なデッドヒートを経てハヤトが接触事故でリタイアしてしまうところで、この主題が暗澹たる雰囲気に変形されて曲を閉じる。

続くトラック4の「GIRL」は、レースが終わり、応援に来ていたあすかが帰国するのをハヤトが空港前で見送るシーンに始まる。柔らかなストリングスによる「あすかのテーマ」にシンプルなピアノの装飾が絡む緩徐的な音楽だが、あすかと別れて車をターンさせるタイミングで、エレキギターの短いブリッジを挟んで曲調が転換、場面がそのままサーキットでのトレーニング走行シーンに切り替わるのと同時に、音楽は陽気に弾むようなストリングスにピアノとティンパニが加わった高揚感あるものへと変化する。短いながらもこれぞフィルム・スコアリング(「機神兵団」の※3参照)といった醍醐味を味わわせてくれる一曲である。

第1話は、マシンの性能競争が激化する中、ハヤトも長年の愛機「アスラーダ」からニューマシン「ガーランド」に乗り換える決意をするところで終わり、第2話でいよいよアルザードが登場する。CDのトラックは必ずしも話数毎にまとまってはおらず、その初登場シーンの音楽である「ALZARD」はアルバム序盤のトラック7に収録されている。音楽は、アルザードがガレージ内で起動を始めるところで、完全五度の音程(D、A)が上下半音ずつ縮まって短三度(D♯、G♭)に進行する音型の繰り返しから成る不穏な動機(アルザードの動機と呼んでも良い)にバス・クラリネットのソロによる不気味なトリルが加わって始まり、続いてアルザードがアオイ(ハヤトの所属するスゴウのライバルチーム)のテストコースに無断で乗り込んで来るところで、速度を速めた切迫感のある音楽に変わる。そこにさらにタムタム(中国起源の銅鑼)の強打も加わって、アルザードの謎めいた威圧感が表現される。またこの曲は、トラック20「PRACTICE BATTLE」の後半にも登場し、第15回大会第1戦の予選で、アルザードが驚異的なタイムを出してライバルチームや観衆を驚愕させるシーンに使われる。

続くトラック8の「FIRST TOUCH」は「KNIFE EDGE BATTLE」のバリエーション(ここではそのままの意味であり、変奏曲という意味ではない)である。テストコースで最終調整中だった加賀と新条(ハヤトのライバル)は、いきがかりからコースに突然乱入してきたアルザードと真っ向勝負をする羽目になる。勝負開始とともに3人のレーサーがアクセルを一気に踏み込むところで前述のフーガが始まる。そして、コーナーリングのシーンでは、カットの切り替えともにフーガの部分が再現されるのだが、ここで調が半音上に突然転調され、緊張感がさらにグッと高まるのである。こういった「突然転調」は、ポップスではサビを繰り返す際に使われているのを聴いたことがあったが、ここでは和声の進行が本来なら現在の調の主和音に向かうところで行われている。サントラにおける転調とは、「なるほど、こんな風に使うのか!」と気付かされた1曲(筆者が知らなかっただけかも知れないが)。

アルバムvol.2は、第3話とラジオドラマ用のサントラが混在して収録されている。第3話は、終わりの方でアルザードの不審な点が徐々に露わになってくるが、それまではハヤトが次第に不貞腐れた態度になっていき、チームのスタッフとの関係もぎくしゃくしていく様子が描かれる。このため、第3話用の音楽には張り詰めた雰囲気や疑念・疑惑、つらい気持ちや悲しみなどを表現した暗めの曲が多く、10トラック中7トラックを占めている。ただ、一方でラジオドラマ用の音楽には、ムード系の陽気な曲やコミカルな曲、あるいはカントリー&ウエスタン風の音楽などの明るい曲調のものも多く含まれており、アルバム全体としては多彩でバランスの取れたものになっている。

アルバムvol.3は、第4~6話の3話分の音楽が収録されている。第5話ではついにアルザードとフィルの秘密が明らかになり、アオイの副社長葵今日子は、アルザードの開発を主導し自分に代わって社長の座に就いた名雲の不正の証拠をつかむため調査を始める。一方、気持ちが吹っ切れるきっかけをつかんだハヤトは、2段ブースト(スパイラル・ブースト)を装備した新型アスラーダとリフティング・ターンという離れ業を引っ提げて完全復帰、アルザードを圧倒して優勝を重ねるようになる。追い詰められた名雲は第6話でついにハヤトを誘拐するという暴挙に出る。

第4話に使われたトラック12の「IMAGINE LOVE」にはちょっと仕掛けがしてある。この曲は、海辺でハヤトがこれまでの不貞腐れた態度や周囲への八つ当たりをあすかに詫び、再び2人が信頼関係を取り戻すシーンに使われるが、ここでは「あすかのテーマ」と「ハヤトのテーマ」がそれぞれ単独で提示された後、双方が寄り添うように同時に演奏されるのである。この2つのテーマは、最初から同時演奏が可能なように(対位法的に成立するように)設計してあったということである(簡単に言うと、同時に鳴らしたときに不用意に不協和な音程で衝突したりしないように互いのメロディラインの関係を考えて作られているということ)。

トラック7「DARK MAZE」とトラック8「DARK MAZE II」は速度違いのバリエーションである。冒頭は囁くようなストリングスのトレモロの上に乗った不安げなハープで始まり、続いて低音域の弦のピツィカートとピアノのユニゾンで刻まれる5+7拍子のリズムに、固めの撥によるティンパニのアタックと半音階的な進行のストリングスを加えたダークな部分に入る。この曲は、第5話でフィルの強さの裏に隠された戦慄の真実が浮かび上がってくるシーンに使われるほか、冒頭のハープの部分には怪しげな新薬「αニューロ」を暗示する動機としての役割も与えられており、加賀がこの薬を栄養ドリンクと勘違いしてハヤトに渡してしまうシーンに使われるトラック14「A BIGININNG」の冒頭にも一瞬登場する。さらにこの動機は、トラック8の「FACT」ではより間延びした形に変形されてストリングスのフラジオレット(ハーモニクス奏法)によるややヒステリックな音に置き換えられ、第4話でそれと知らずにαニューロを飲んでしまったハヤトが、高々40km/hの速度に恐怖する幻惑的なシーンに使用される。

トラック20の「RISING SUN」からトラック23の「FUTURE GPX」は、いずれも「新アスラーダのテーマ」のバリエーションである。完全に気持ちが吹っ切れ反撃を開始したハヤトの心情を反映して、それまでのレースシーンの張り詰めた雰囲気の曲から一転して晴れやかで解放感のある曲調になっている。再びアスラーダに乗り換えたいというハヤトに、チーム・オーナーでありあすかの兄でもある菅生修は、自分とのマッチ・レースに勝つことを条件に課す。「RISING SUN」は、タイトル通り日の出を思わせる冒頭に始まるさわやかなアレンジで、ハヤトと新型になったアスラーダとの再会シーンに使用される。次いで、修とのマッチ・レースのシーンには「KNIFE EDGE BATTLE」のバリエーションであるトラック3の「ENDRESS FIELD」が使用されるが、ここからはこのバリエーションも長調に移調されて明るい曲調で使用されるようになる。このレースのさ中、ハヤトはリフティング・ターンのヒントを得る。

第15回大会第6戦、レース序盤では張り詰めた雰囲気のトラック24の「DESTINY」が使用されるが、ここでスパイラル・ブーストによりハヤトは2位の加賀を抜いてアルザードを射程に収める。ここからハヤトの猛追撃が始まるが、そこで曲は解放感あふれる「FUTURE GPX」となり、ついにリフティング・ターンでアルザードを追い抜く。この「DESTINY」(緊張)→デッドヒート→スパイラル・ブーストの爆風の描写→「FUTURE GPX」(解放)→猛追撃→リフティング・ターン→観衆の驚愕と熱狂、というジェット・コースターのような映像と音楽の掛け合いの巧みさは特筆に値するもので、興奮を誘わずにはおかない。そしてゴール、ついに今季の初優勝というところで再び「RISING SUN」となる。

アルバムvol.4は、第7、8話の音楽が収録されている。エピローグに使用されるトラック21の「SAGA」は、メドレー形式になっていて、主題歌のアレンジ(予告編に使用されるvol.1のトラック9「Identity Crisis(Instrumental Version)」と同じ)→「KNIFE EDGE BATTLE」のバリエーション→同テーマが長調に転調→「新アスラーダのテーマ」となっている。この時、転調前の部分では、昔懐かしの「ダバダバ」スキャットがフーガで加わる。その後、「新アスラーダのテーマ」は歌詞を伴うコーラスになるが、最後に「forever SUNRISE!」とちゃっかり歌ってしまう遊びも入っている(本作の制作元の社名であるサンライズと掛けた洒落)。

なお紹介が遅れたが、スピード感あふれるロック調の主題歌(トラック1「Identity Crisis」)もストーリーに非常にマッチしており、間奏部で各話のキーとなるカットとセリフが曲のリズムに同期して挿入される演出も秀逸。

次にSINの方であるが、ここでは「アルザード事件」のその後から物語が始まる。主役をハヤトからそのライバルであり良き先輩でもあるブリード加賀に移し、今や向かうところ敵無しとなったハヤトに挑戦する加賀の苦闘が描かれる。アルバムは、全5話分が2枚に収録されている。

SINの音楽については実のところ、アニメを見る前はそれほど期待してはいなかった。シリーズものを同じ作曲家が担当すると、大抵その中に脂の乗り切った頂点を築く作品があり、その後は手馴れてきたりマンネリ化を避けるために技巧を凝らしたりして、かえって精彩を欠いていく場合が多い。SAGAを聴いた時に、最初にその頂点が来てしまったのではないかと感じてしまったからである。ところが、この予想は良い意味で大きく裏切られる。前半こそ、SAGAで作曲されたテーマ等を踏襲していてそれほど新鮮味は無かったものの、後半からさらにパワーアップしている。

SAGAはアルザードを取り巻く様々な人々の葛藤を描く群像劇となっていたが、SINは基本的に加賀の視点から物語が描かれており、ハヤト以外のレーサー達の存在は背後に後退している。ドラマ的にハヤトとの一騎打ちを主軸にした「男の闘いのドラマ」の色彩が強まり、音楽的にも「男臭さ」が強調されている。そのことを反映するように、主題歌もまたSAGAから大きくイメージチェンジしている。

アルバムvol.1には第1話と第2話の音楽が収録されており、SAGAで使われたテーマがいくつか引き継がれている以外に多くの新曲が登場するが、まだこの段階では全体のカラーとしてはSAGA路線の延長線上にある。ただ、ここでトラック4の「思惑」において孤独な憂いを含んだ「加賀のテーマ」と言えるものが新たにピアノ・ソロで登場するが、これはSAGAには無かった性格付けの音楽である。トラック6の「哀歌~魂~」においてこのテーマ(哀歌)がアコースティック・ギターの伴奏によるハーモニカのソロで奏されていることで一層はっきりするのだが、おそらくこれはSINで一匹狼的な性格が濃くなった加賀に、西部劇に良くある風来のカウボーイのようなキャラクターを投影しようとしたものなのではないだろうか。アルバム各曲のタイトル付けのポリシーにも、そのようなSAGAとは性格的に異なるコンセプトを狙ったことが反映されているように思う(アルバムでのタイトル付けはおそらく作曲者本人によるものではないが)。

第3~5話の音楽が収録されているvol.2になると、新たに重要なテーマが2つ登場し、SINにおける重要な3つのテーマが出揃う。ここからは音楽全体のコンセプトがSAGA路線から大きく方向転換するが、CDのライナーによるとこれにはサンライズのプロデューサー古里尚丈の判断があったらしい。これら3つのテーマ「哀歌」、「決意」、「魂」はSAGAから引き継いだいくつかのテーマとともに様々に形を変え組み合わされて執拗なまでに繰り返し使用され、SIN後半の加賀と凰呀にまつわるライト・モチーフの役割を果たしている。各曲においてどのテーマが組み合わされているかは、曲のタイトル付けが(例外はあるものの)原則としてテーマ名由来になっているため、概ね判断可能である(ここで、SAGAの「KNIFE EDGE BATTLE」は「風」というテーマ名で使用されている)。そして、音楽は外面的な出来事やアクションといった視覚的要素をこれと同質な曲で重ねて補強するのではなく、キャラクターの内面を表現することに、より重点が置かれるようになっている。また、加賀というキャラクターを強調するためか全体にエレキギターが前面に出されて多用されていることが、SAGA~SIN vol.1と異なるSIN vol.2のカラーを決定付ける大きな要因となっている。

新登場のテーマの1つめは、加賀のニューマシン「凰呀」のテーマである。このテーマの基本形が初登場するのは、第3話のアルゼンチンGPの予選のシーンであるが、そこで使われるトラック3の「凰呀」は珍しくオールシンセサイザーで演奏されている。初めてアニメでこれを聴いた時は安っぽく感じてしまい、なぜわざわざここだけそんなことをしたのか腑に落ちなかったが、物語全体を見て納得できた気がした。この曲は、かつて2人のテストドライバーを死に追いやった暴れ馬のような高性能マシン凰呀を、加賀がまだうまく手懐けることができずに振り回されるシーンに使われている。つまり、まだ人とクルマの協調関係が築けておらず、力でねじ伏せようとする加賀の奮闘をよそに凰呀の方は淡々と計算通りのコースを進んで行こうとする、そんな様子を生楽器を避けたクールな音響で表現したかったのだろう。そうわかってから聴き慣れてみると、このアレンジもとてもカッコ良く聴こえてくるから不思議だ。このシーンは要するに「じゃじゃ馬馴らし」のロデオなのだ。ただし、クレッシェンドする白玉音符が印象的な、高速空間での真剣そのものの勝負を思わせるメロディには、ロデオシーンのBGMに良くあるカントリー&ウエスタン風の曲のような諧謔的要素は皆無である。

ところで、加賀が凰呀を手に入れたばかりで振り回されるシーンは、すでに第2話のアオイのテストコースのシーンにおいて3回もあるが、いずれの場合も嵐の到来を思わせるトラック18「激闘」と、同テーマを中間部に使用したトラック22「風~闘志~」が使用されている。この「激闘」はSINでの新曲ではあるのだが、音楽的なカラーとしてはSAGA路線を継承したものである。最初から「凰呀」の方を使用するというアイデアもあり得た気もするのだが、第3話で初登場となったのは、意図した結果というよりは、この曲の発想自体がvol.2における音楽コンセプトの方向転換によって生み出されたものであるためと考えた方が自然であるように感じられる。またこのテーマは、もちろんレースシーンに頻出するのだが、凰呀というマシンそのものというよりも、凰呀との因果を想起させるライト・モチーフとして全く違う場面でも使用される。例えば、トラック11「女心」のピアノ・ソロやトラック13「心情」のハープ・ソロの部分がそれで、ここでは「凰呀」という存在を知ってしまった加賀に死と隣り合わせの危うさを感じながら、ハヤトとの死闘をただ見守るしかない女性キャラクター達の不安で切ない感情の表現として使われている。

2つ目のテーマは、加賀の闘いのテーマとも言えるトラック7の「決意」である。強敵に立ち向かう挑戦者の闘志を思わせるこのメロディは、言わばあのビル・コンティの「ロッキーのテーマ(Gonna Fly Now)」のスピード競技版、とも言えるだろう。このテーマはレースシーンでは主にドラムセットとエレキギターによる偶数拍にアクセントを付けたロック調のリズムをベースとして、メロディラインをホルンやトランペットなどが担当しているが、中でも「不信」ではメロディの音価を2倍に引き伸ばしてエレキギターのソロで演奏させることにより、弾むようなノリを生み出している。このエレキギター版は、第4話のカナダGPで使用されている。

上記では3つのテーマが重要と書いたが、実はもう1つ重要な曲がある。第4話において第9戦のイタリアGPから第10戦の中国GPでのハヤトとのドッグファイトシーンにかけて使われるトラック16の「魂」がそれなのだが、ただこの曲はテーマというほどの位置づけではなく、レースシーンにおいてこれまでのテーマの組み合わせでは表現できないシーンを補完するための曲だという風に考えた方が良さそうに思える。実際に上記以外では、第5話の日本GP決勝戦でのハヤトとの最後のドッグファイトシーンにおけるトラック26の「魂~凰呀~哀歌~決意~」で使用されているに過ぎない。しかし、使用回数が少ないのはここぞという重要なシーンで使われているからに他ならず、特にトラック26は上記の3テーマ+1曲がすべて結合された、5分を超える大曲である。この「魂」では、音楽は映像と同じような激しいリズムや音響を重ねるのではなく、ピアノの和音によるバッキングのリズムを前面に出すことで、熱量は維持しつつもむしろ冷静な視点で両者の熾烈な攻防戦を描き出している。なお蛇足ながら、この曲では当時でも劇伴で使われるのは珍しくなっていたと思われるハモンド・オルガンの音色(本物ではなくキーボードかも知れない)も聴かれる。

こうしてそれぞれの曲が、カットの進行や登場人物の感情の起伏に合わせて多数のテーマを巧みに組み合わせることにより成立している。それぞれのテーマを1度覚えてしまうと、どれも聴き馴染みのあるメロディになってしまうためにごく自然な流れとして聴いてしまうのだが、良く良く注意して聴いてみると、非常に緻密な音楽設計がなされているのである。

※1)アルザードはコンピュータが計算した最良のコースをドライバーに強制するシステムであり、フィルはこれに耐えられるよう、筋肉の反応速度を増し、スピードに対する恐怖心を鈍らせる神経系の新薬を服用させられていたというもの。しかし、この薬には激烈な副作用があり、また薬が切れる際に今度はリバウンドでスピードに対する恐怖心が増すという欠点がある。このプロットは、明らかに’60年代に一世を風靡したTVアニメ「マッハGOGOGO」の第20/21話、「悪魔のレースカー」からヒントを得ている。ここでは、やはり超高速マシンに耐えるため、ドライバーはLDDと呼ばれる噴霧薬を吸うことでスピードに対する恐怖心を軽減させるが、この薬には激しい喉の渇きを覚える副作用があり、思わず水を飲んでしまうと今度はスピードに対する恐怖心が強まるという設定であった。

※2)このアルバムは、SAGAのサントラの聴きどころをダイジェストしたものであるが、最大の価値は、それら以外に作曲者本人がシンセサイザーで制作したデモ曲(スケッチデッサン)が5曲含まれていること(トラック33~37)と、ライナーにハヤトのテーマのピアノ・ソロ用の楽譜が掲載されていることにある。このようなものが市販されることは滅多にないので、一般消費者が作曲過程を知ることができる貴重な資料と言える(ビジネス的には再編集しただけのアルバムを売るために既存の音源でおまけを付けたかっただけかも知れないが)。ただ、1つ苦言を言わせていただきたいのは、同人誌感覚のそのジャケットデザインに関してである。まるでBL系エロアニメかと思わせるようなイラストとタイトル付けであり、これでは一般のファンにとってむしろ買いにくくしているようなもの。なぜ突然こんな発想をしたのか理解できないが、品位に欠けることはくれぐれもやめて欲しい。

※3)アニメのサントラにおいて、このようなフーガの技法を使用した前例としては、「さよなら銀河鉄道999-アンドロメダ終着駅-」(東海林修 '81)の「生命の火」がある。ここではメーテルが「永遠の生命」の真実を鉄郎に見せようと、女王にしか開けられない大扉を開けてみせるシーンで使用されていて、非常に印象的であったが、あくまでその場限りの使用である。「交響曲イデオン」(すぎやまこういち '93)の第三楽章にも類似例があるが、こちらはドラマの演出上の効果というよりは、音楽としての構築性を狙ったものと思われる。他にも、コミックのイメージアルバム「ぼくの地球を守って」(野見 祐二 '88)に収録された組曲の第2楽章「Fuga~星間戦争」のように、星間戦争が始まった緊迫感と戦慄を表現するために使用された例もある。

リスト(アニメーションの名盤100選)へ
音楽の羅針盤 トップページへ

リンクはご自由にどうぞ。

Copyright (C)Since 2008 Amasawa